世界一だけが目標の空気…イチ「勝ちたい」気持ちで輝き戻る

[ 2012年10月5日 06:00 ]

<ヤンキース・レッドソックス>地区優勝を決め、ジーター(左)にシャンパンをかけるヤンキース・イチロー

ア・リーグ ヤンキース14―2レッドソックス

(10月3日 ニューヨーク)
 11年ぶりの歓喜だ。ヤンキースは3日(日本時間4日)レッドソックスに大勝しレギュラーシーズン最後の162試合目で2年連続の地区優勝を決めた。イチロー外野手(38)は 7回に右中間2点二塁打を放つなど勝利に貢献しマリナーズ時代の01年以来の優勝に笑顔がはじけた。今年7月に刺激を求めて、名門球団への移籍を志願。控え扱いを受け入れて新たな背番号から再出発した男が、ニューヨークでかつての輝きを取り戻した。

 やっと、ここまで来た。試合終了後。イチローに、とびきりの笑顔がはじけた。162試合目を終えての歓喜のシャンパンファイト。メジャーでは初体験だった。

 「マリナーズの時(01年)、実はやっていないんです。テロがあったので自粛した。WBCではありますけれども、シーズンでは初めてですね」

 しかし、美酒の儀式はわずか5分足らずで終了した。他球団の半分ほど。地区優勝からリーグ優勝、世界一と段階を踏んで派手になる。それが世界一を宿命づけられたヤ  ンキースの誇りと伝 統なのだ。

 イチローは言う。「この時点で冷静になっている自分がいる。こうなっている自分を見ると、ようやくヤンキースの一員になったのかなと今、思っています」。オリオールズとのデッドヒートを制し、地区優勝を遂げて初めて一員になったと感じた。同時に地区優勝では満足しないピンストライプの重みを実感した。

 7月23日。11年間プレーしたマリナーズからヤ軍へ移籍した。目を潤ませながら「環境を変えて刺激を求めたいという強い思いは芽生えていた」と語った。自ら志願したトレードだった。新天地はマ軍とは180度違った。打順は下位、守備は左翼、左投手の時は控え…。屈辱的な条件を全て受け入れ、新背番号31で再出発した。純粋に「勝ちたい」という気持ちは抑えられなかった。

 野球人生で最大、最後の賭けで自らを奮い立たせた。マ軍では打率・261だったがヤ軍では・322。9月19日からの5試合は20打数14安打、打率7割と打ちまくるなど、勝負どころの9月は・385。差し込まれがちだった打撃から、ボールを押し込むようなスイングによる強い打球がよみがえった。ヤ軍での1打数当たりの安打は0・32本。仮に最後に200安打した10年の680打数に換算すると、年間217本となる。

 本人はこの変化を「野球というのは何が原因というのは、説明するのは難しい競技」と独特の言い回しで語る。しかし、「ただ、シンプルな目標、勝つということにフォーカスしているのは間違いない」と精神面の充実ぶりを強調。結果に厳しいニューヨークのファンも味方につけ「プレーのリアクションが大きいから楽しいですよ。ビンビン感じる」と楽しんだ。

 7回、イチローがダメ押しの2点二塁打を放った直後にオリオールズが敗れ、電光掲示板に地区優勝が決まったことが表示された。塁上のイチローは「きょうの展開(大量リード)だとボルティモアに勝ってほしいと思いますよね。(自分たちが)勝って決めたい。人間って勝手なもんだと思いました」と笑わせた。

 喜びは一瞬。主将ジーターは「きょうで練習試合は終わりだ」と話したという。唯一無二の目標が世界一。ヤ軍の一員として、そのスタートに立ったイチローも「今、この瞬間というのはきょうだけで過去になる」

 過去10年間経験できなかった「10月の戦い」。イチローの新たな戦いは、既に始まっている。

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2012年10月5日のニュース