仙台に届け！ＪＲ東日本東北・森内５４年ぶり完全試合

[ 2011年10月25日 06:00 ]

都市対抗野球大会第３日ＪＲ東日本東北４―０三菱重工横浜

（10月24日京セラＤ）
　被災した地元へ、東北地方へ希望の快投――。今年３月の東日本大震災で大きな被害を受けた東北第１代表のＪＲ東日本東北（仙台市）・森内寿春投手（２６）が、三菱重工横浜（横浜市）との１回戦で完全試合を達成した。１３２球を投げ１２奪三振。完全試合は５７年の村上峻介（日鉄二瀬）以来、５４年ぶり史上２人目の快挙だ。震災の影響で開催が大幅に遅れた大会で、１日も早い復興を目指す晩秋の東北に朗報を届けた。
【試合結果】

　東北で生まれ、東北一筋の野球人生。苦難の先に、奇跡のような瞬間が待っていた。９回２死、森内が投じた１３２球目。２７人目の打者・村山を１２１キロチェンジアップで三振に仕留めると、両手を高々と突き上げた。捕手の高橋に飛びつかれ、あっという間にナインにもみくちゃにされた。

　「被災地に勇気を与えられた１勝だと思う。震災で被害を受けてもブランクは関係なかったと証明できた。今まで味わったことがないうれしさです」。満面の笑み。「みんなと共に―がんばろう！東北」と書かれたワッペンが縫い付けられたユニホームの胸を張った。

　３月１１日。東日本大震災が発生した時、チームは広島県呉市内でキャンプ中だった。同下旬に地元に戻ったが、惨状に思わず目を疑った。森内も他の社員とともに、津波で不通となった沿岸部の路線の代行バスの案内や、被害を受けた本塩釜駅の清掃活動などに従事した。目の前に広がるのは津波で全てを流された陸地に、打ち上げられた船が横たわる風景。「震災で苦労されている方がたくさんいる。野球はやれる時にやろう」。全体練習は約２カ月間も中断。そんな中で夜勤、泊まり勤務明けの午後にランニングを行うなど、懸命に自主トレを続けてきた。

　入社５年目で都市対抗初先発。最速１４２キロと切れ味満点の直球と、チェンジアップがさえた。奪三振以外の１５のアウトのうち、内外野への飛球が１２。同社ＯＢの摂津（ソフトバンク）を参考に、リリースポイントを前にしたフォームで制球力が増した。その摂津が抜けた０９年から主軸。登板中のポーカーフェースも先輩を見習ったもので「エースたるもの、相手に弱みは見せない」。これまで「東北のお山の大将では駄目」とハッパをかけてきた藤井省二監督も「人間的に成長した」と目を細めた。

　「（震災を経て）練習をやらされる、というのがなくなった。野球の面白さが分かり、大事にやろうと思えるようになった」。青森大時代から何度もドラフト候補に名前が挙がったが、プロ入りの夢はかなわないまま２６歳になった。震災によって野球の魅力を再確認した遅咲き右腕が、全国の舞台で成し遂げた大記録。それはドラフト会議を３日後に控えての大アピールともいえた。一歩一歩、諦めずに前に進めば、きっと実現できる。復興を目指す被災地へ、熱い思いがいっぱいに詰まった森内の１３２球だった。

　◆森内　寿春（もりうち・としはる）１９８５年（昭６０）１月２日、青森県生まれの２６歳。小２で野球を始め、青森シニアでは内野手。青森・八戸工大一から投手に転向。甲子園出場経験はなし。青森大４年秋に６勝を挙げ、北東北大学野球リーグでＭＶＰ。ＪＲ東日本東北では１年目の０７年に、摂津に次ぐ２番手投手として日本選手権４強入りに貢献。１メートル７８、８０キロ。右投げ右打ち。

　≪ＪＲ東日本東北野球部≫宮城県仙台市に本拠地を置き、１９１９年（大８）に「仙台鉄道管理局」として創部。２７年（昭２）の第１回都市対抗に出場した。８７年の国鉄民営化に伴い、秋田、盛岡の各鉄道管理局チームを併合して改称。９５年に５３年ぶりの都市対抗出場を果たし、今年で２３度目の出場を誇る。最高成績は８強。小坂誠（楽天コーチ）や摂津正（ソフトバンク）らプロ野球選手も多数輩出。

　≪５７年の村上峻介の完全試合≫７月２９日の１回戦で鐘化カネカロン（高砂市）と対戦。右下手投げの村上は打者２７人を三振３、内野ゴロ３、内野フライ１３、外野フライ８に抑え、大会初の完全試合を達成。最後の打者を一邪飛に打ち取ると、遊撃手の古葉竹識（元広島、現東京国際大監督）がマウンドに駆け寄り祝福。捕手は江藤慎一（故人・元ロッテ）。村上氏は現在も福岡県内に在住。

　▼東京国際大・古葉竹識監督　当時は都市対抗で完全試合なんて考えれないことでした。とにかくエラーしないよう、捕れる範囲は捕らないと、と思ったのを覚えてます。あの頃、村上さんは打者に転向する話もあったけど、投手陣の体調が悪くて投げていたんですよ。そしたら完全試合をやったんです。これで社会人野球がまたにぎやかになってほしいですね。