心優しきマートン 「子どもたちにボールを」とでも思ったか…

[ 2011年5月27日 09:45 ]

<神・ロ>7回1死二塁、清田の右飛を捕球したマートンはアウトカウントを間違えてスタンドに投げ入れてしまう

交流戦 阪神1―4ロッテ

(5月26日 甲子園)
 マット・マートンがボールを投げ入れたアルプス席には子どもたちが大勢いた。修学旅行で訪れた小中学生が雨に濡れながら応援していた。

 心優しい彼のことだ。「子どもたちにボールを」とでも思ったか。だがアウトカウントを間違えるなど問答無用。集中力の欠如である。相手に無条件で得点を与える凡失は敗退行為に等しい。

 1919年の大リーグ・ワールドシリーズで“シューレス”ジョー・ジャクソンは八百長に関わったとして永久追放される。大陪審(ばいしん)から出てきたジャクソンに少年が「うそだと言ってよ、ジョー!」と叫んだ逸話はあまりにも有名だ。

 この夜の子どもたちも「うそだと言ってよ」と叫びたかったはずだ。

 マートンに限らない。初回先頭からの連続失策は、試合に入る姿勢を問われても仕方ない。

 昼間、鳴尾浜で2軍戦を見た。社会人JX―ENEOSとの交流戦だ。シートノックが終わり、試合開始まで数分の時間があった。ENEOSの選手たちはベンチ前で大声を張り上げ、短距離ダッシュを行っていた。

 試合は一方的だった。1回表、速攻で1点を奪い、4回で7―0。最終8―4でプロに勝った。大声で走ったからではない。伝わる気迫、みなぎる闘志がプレーボールで発散されたのだ。

 試合前、2軍監督・吉竹春樹はENEOS監督・大久保秀昭(元近鉄)から「今は野球が楽しいんです」と聞いた。「選手たちがひたむき、懸命だからだそうだ。アマに見習う部分もあるね」

 ENEOS(当時・日本石油)OBで観戦していた1軍コーチ・久慈照嘉に聞いた。「試合に入っていたとは思う」と失策の関本賢太郎をかばった。「懸命に練習する選手だし」確かに彼は勤勉だ。だが今のチームには何か霧がかかっている。

 「アマに見習う」を考える時、ジャクソンの言葉がある。「食べるために野球をしなきゃならなかった。本当はただで野球をやりたかった。肝心なのは試合、球場、匂(にお)い、音だ」。彼は「野球を愛していた」。金を稼ごうが、無報酬だろうが、野球への愛情を忘れてはいけない。 =敬称略= (編集委員・内田雅也)

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2011年5月27日のニュース