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【コラム】海外通信員

リーガ 財政健全化とテレビ放映権収入

[ 2016年8月19日 05:30 ]

セビリアに入団した清武
Photo By 提供写真

 少し前まで財政破綻は目前とされていたリーガエスパニョーラだが、各クラブの経営は劇的な改善を見せている。

 2010年代初頭、スペインのクラブの財政状況は危機的な水準にあった。財政省に7億ユーロ以上の債務を抱えるなど借金が重なり、選手の給与未払いも当たり前の状況。首が回らず解散に追い込まれるクラブすらあった。しかし2013年にスペイン教育文化スポーツ省・スポーツ上級審議会(CSD)とスペインプロリーグ機構(LFP)がリーガ所属クラブ(1部&2部)の財政を取り締まる規定を発表し、それが施行されてから状況は激変した。

 2013~14シーズンから施行された規定で、リーガ所属クラブはスポーツ面以外のコストを10%減らすだけでなく、出資事業の費用は正味資産の30%(2部クラブは60%)以下に定められ、最低3%の利益が求められることに。そしてトップチームの予算は所属選手の年俸のほか、契約年数によって減価償却されていく選手獲得の移籍金も同予算内に収める必要があり、年間収入の60~70%程に限られた。規定を破った場合には選手登録が禁止されることになる。

 その規定の施行から約3年を経て、各クラブの健全経営は目に見える形で表れている。リーガ所属クラブの収支決算は2011~12シーズンが2億1600万ユーロの赤字だったものの、2015~16シーズンは2億ユーロ以上の黒字となることが確実となった。収入と負債の比率は2011~12シーズンが2.80(収入に対して2.80倍の負債が存在した)であったのに対して、2014~15シーズンには1.84まで減少。7億ユーロ以上あった財務省への負債も、2015年12月時点で2億8000万ユーロまで減っており、2016年12月には2億ユーロを下回ることが見込まれている。一方で選手の給与未払いについては、2010~11シーズンにはじつに341選手が金を受け取っていないとLFPに訴えたが、2015~16シーズンに訴えたのはわずか7選手のみ。その7選手についても、給与額についてクラブと見解の食い違いがあるだけで、支払いが滞っているわけではない。

 財政取り締まりに関する規定は確実に、各クラブを健全な経営へと導いている。また各クラブはその規定によって、ただ倹約を強いられているわけではない。その理由は、テレビ放映権収入にある。これまで各クラブが個別に映像会社と契約してきた放映権が一括管理されるようになったため、交渉がしやすくなり、総収入が急増しているためだ。

 まだ各クラブが個別に契約していた2014~15シーズンの放送権総収入は8億5100万ユーロだったが、一括管理後の2015~16シーズンはそれが9億3800万ユーロとなり、2016~17シーズンは15億7300万ユーロまで増える見通しとなった。現時点で、この放送権収入増加の恩恵を受けるのは、個別契約の頃と同額の1億4000万ユーロの収入が維持されているレアル・マドリードとバルセロナ以外のクラブである。例えばリーガで3番目の規模を誇るアトレティコ・マドリードは、2016~17シーズンに前シーズンより4000万ユーロ増となる1億ユーロを手にする予定で、小規模のクラブであっても2年前にアトレティコ、またバレンシアが受け取っていた4000万ユーロ程度の放送権収入が保証される見込みとなっている。

 この財政取り締まりの規約と放送収入増加の仕掛け人は、2013年にLFP会長に就任したハビエル・テバスだ。大多数の2部クラブの顧問弁護士を務めるなどして名を上げ、LFP会長の地位まで上り詰めた。以前のリーガの状況を「スペインサッカーのレベルは非常に高いが、財政的な改善が必要だった。クラブが解散に追い込まれるなど、ファンにとっては悲しみでしかなかった」と振り返り、現状については「各クラブはより質の高い選手を獲得でき、違うリーグに選手を放出する必要もなくなり始めた」と胸を張る。

 リーガの未来において気になるのは、常々問題視されてきたレアル&バルセロナの2強とその他の格差が、これから縮まっていくのかどうかだろう。だがこの点についてテバスは、リーガにはヒエラルキーがあって然るべきと語る。「テレビ放送権収入のことを考えても、2強とその他の差は維持されなくては。それが世界における我々のポテンシャルとなるものだからね。リーガをスペイン国内、また世界に売り込んでいく上で、2強を2強でなくしたらセールスポイントがなくなる。すべてのクラブを同等とすれば、我々は成長するどころか貧しくなっていくだろう」

 テレビ放送権収入の増加については、レアルとバルセロナの収入はもうそれだけに依存しているわけではなく、格差を縮める決定的な手立てになるわけではない。テバスの意図はあくまで、各クラブを健全経営に導き、地に足をつけた成長を促すことにある。そして最終的には、ヒエラルキーがありながらもビッグクラブ以外も潤うプレミアリーグのようなリーグ構築を目指すようだ。もちろん、「2強とその他の差は維持されなくてはならない」という彼の言葉は、2強以外のクラブのファンからは反感を買っている。ただ、少なくとも今のリーガで、クラブの解散などによってファンが深い悲しみの涙を流すことはなさそうだ。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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