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【コラム】海外通信員

パリのミステリー CLマンC戦、謎の崩壊はなぜ起きた?

[ 2021年4月30日 11:00 ]

<パリSG・マンチェスターC>戦況を見つめるパリSGのポチェッティーノ監督
Photo By AP

 「どうやったらこれほど?」「ハーフタイム後に何が?」「なぜ敗退チームのような無様な姿に?」「いくら何でもミステリアス」――

 チャンピオンズリーグ(CL)準決勝ファーストレグでパリSG(PSG)がマンチェスター・シティ(MC)に敗れた(1-2)フランスでは、前半に怒涛の猛攻で敵を圧倒しながら、後半に突然崩壊してしまったパリの謎が大きな話題になっている。

 真っ先に出たのは、「フィジカルがついていかなかった」というフィジカル説。だが「これほどのワールドクラスプレーヤーたちが、しかもCL準決勝という檜舞台で45分しかもたないなんて、あまりに異様すぎる」との疑問も噴出した。

 マウリシオ・ポチェティーノ監督の采配ミス説も浮上した。苦戦が続いてもなぜか交代に動かず、終盤にやっとマウロ・イカルディを投入しようとしていた矢先、イドリサ・ゲイエがレッド退場に。これで守備を固めるしかなくなってしまった。

 これをめぐっては、「不調でもメッシをベンチに下げることができないように、ネイマールを下げればのちのち問題が噴出する」との弁護論が出たかと思えば、「いや、メッシは苛つかないが、ネイマールは苛つく」の反論が飛び出し、議論が起きた。後手采配は否定できないものの、それだけでもなさそうだ。

 ではそのネイマールとキリアン・エムバペの問題だろうか。

 このうちエムバペは、試合直前に足を押さえて何やら苦渋の表情をみせた。エムバペはこのところ絶好調で、恐るべきリーダーシップさえ発揮していたが、先日リーグアンで打撲を受けたため、体調万全ではなかった可能性がある。だがそれにしても、何らいいところを見せられず、ヴェラッティへのパスもうまくコントロールできなかった(34分)。

 一方ネイマールは、前半はよく動いていたのに、後半になるといつもどおり苛立ってしまった。むかついてチームメイトのミッチェル・バッカーを非難し、子どもじみたファウルで無用に敵を押し倒し、チーム全体にネガティブな空気を伝播したと言える。

 つまり「フランス人は一度も本格的に存在できず、ブラジル人は有害な苛立ちに陥ってしまった」(『L’EQUIPE』紙パリ番ダミアン・ドゥゴール記者)のだ。「デ・ブルイネがチームを引っぱり上げたのに対し、エムバペもネイマールも、向かい風の中でパリを立て直すことができなかった」(同)。

 しかも頼みのケイラー・ナヴァスも今回は不覚をとった。デ・ブルイネの不思議なループ&バウンドシュートに一瞬驚き、対応に遅れてしまったのだ(64分)。これが「恐ろしい心理的一撃になった」(同)可能性もかなり高い。「PSGを背負う4人のうち3人が期待に応えなかった(ナヴァス、ネイマール、エムバペ)のであり、いくらマルキーニョスといえども一人で全てはできない」のだ。(同紙ヴァンサン・デュリュック記者の社説)

 ただ、それでも謎は残る。

 もしかするとパリは、前半の凄まじい上出来で、幻想につかまってしまったのではないか。そもそもこの日のパルク・デ・プランスには、「最終凱旋に向けて前進」の横断幕がでかでかと飾られてもいた。「最終凱旋」とはもろにCL優勝のことである。

 エムバペは絶好調、怪我人もコロナ陽性者もおらず、出場が危ぶまれていたマルキーニョスも復帰したとあって、パリには最初から楽観ムードが漂っていた気がする。「我々はバルサもバイエルンも撃破したのだ。勝てて当然だ」――。そんな雰囲気だ。スタジアム周辺にはサポーターも集まっていたが、湿った花火は打ち上げられなかった。

 一方デュリュック記者は、PSGでは「努力は深い文化になっておらず、選手間のモラル契約も深くない」として、スペクタクルなパリ崩壊の謎を「アイデンティティ欠如」のアングルから見つめている。「短期間で獲得されるものと(時間をかけて)建設されるものがある。舞台に上がる直前に化粧するだけでは、新しいアイデンティティなど主張できないのだ」と容赦なかった。

 だがもう一つの仮説も成り立つ。ペップ・グアルディオラ監督はこの試合を前に、こんな表現をしていたからだ。

 「(PSGを)90分間コントロールしきるのは、ほとんど不可能だ」――

 グアルディオラ監督はFCバルセロナとバイエルンの轍を踏まないよう、最初はインテンシティーにのめりこまず、パリを猛攻に走らせて疲れさせたのではないか。マルコ・ヴェラッティとエムバペの連係を断って、被害を最低限に抑える。そのうえで後半一気に自分たちのポゼッションスタイルを展開し、ボールをキープしながら徐々にパリを無力化、最後はローラー車のごとく圧殺する――。そんな賭けをしたのではないだろうか。

 同監督は試合後、「ポチェティーノは後半起きたことから学ぶだろう」と謎めいた言葉を放っている。そして「セカンドレグも容易ではない」と引き締めつつ、「だが自分たちらしいプレーを創り出せれば、さほど問題がないこともわかっている」と自信を滲ませた。

 ヨーロッパカップ過去378試合の統計によれば、ホームのファーストレグを1-2で落としたチームが次ステージに進出する確率はたった7パーセントだという。デュリュック記者は「ミステリーこそ希望をキープしてくれる」とやや皮肉に社説を締めくくったが、フランスではみなが一縷の望みを抱いてもいる。来週火曜日、果たしてパリは奇跡の反逆を起こせるのだろうか。(結城麻里=パリ通信員)

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