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【コラム】海外通信員

フランス代表デシャン監督の周りに台風の渦巻(後編)

[ 2023年1月25日 16:00 ]

フランス代表監督就任が濃厚と思われたジネディーヌ・ジダン氏だったが…
Photo By スポニチ

 ~~98年王者OBたちの亀裂が露わに~~(結城麻里=パリ通信員)

 だが、割を食ったのはデシャン監督である。ルグラエットが一時的に身を引くと決まった日、ニースでボランティア活動をしていたデシャン監督は、短いコメントをせざるを得なくなった。自分の雇用者であるルグラエットを斬って捨てるわけにはいかないが、こう語ったのだ。

 「彼(会長)の言葉は、本人も認めたとおり不適切だった。ジズーに謝罪したのは非常にいいことだ。スポーツ面のシチュエーションが、私たち二人(デシャンとジダン)をスポーツ面のライバルになるよう導いてしまった。もっと言えば、一部の人々には対立になっている。だが私はともに生き、ともに共有したものとの関係で、常に彼に大きなリスペクトを抱いてきたと思う。選手という第一の人生でもすでにそうだったし、フットボールとフランスのスポーツ界で彼が代表しているものとの関係でもそうだ」

 ごく真っ当なコメントだった。だが何人かの人々には、一言だけ多かった。「一部の人々には対立になっている」という部分である。1998年世界王者のうちジダンに近いOBたちは、自分が指弾されたようにとったのだ。

 何を隠そう、例の「RMC」で、だいぶ前からデシャンを激しく批判してきたOBクリストフ・デュガリは、怒り心頭に発した可能性がある。デュガリはボルドー現役時代からジダンの大の親友。しかもメディアで働くようになってからは、デシャンについて、プレークオリティーが低い、ベンゼマを招集しないのは許せない、と非難の雨あられを浴びせてきた経緯がある。

 ただし、本当にデュガリが「ジダンのスピーカー」なのかどうかは、怪しい。デシャンへの個人的恨みや嫉妬かもしれないからだ。デシャンも快くは思っていなかったが、メディアで働く元チームメイトの表現の自由を尊重してきた。

 だが別の親友も黙っていられなくなってしまった。やはりボルドー時代からのジダンの親友、ビシェンテ・リザラズである。リザラズは放映権をもつテレビ局「TF1」でフランス代表マッチのコメンテーターを務めており、デシャンと同じバスク地方出身でもある。そこで支離滅裂な状況を整理しなければと感じたのだろう。17日、みずから「レキップ」紙上に登場した。

 リザラズはここで、ルグラエット会長のジダンに関する失言は「花瓶の水を溢れさせる一滴になった」と強調。過去の会長は明晰だったが、いまや同じ人物ではなくなった、会長職に復職すべきではない、と分析した。

 またデシャンについては、「明らかに彼は(ワールドカップの好成績で)冒険を続ける権利を獲得したと思う。でも持続はあと2年に留めるべきだった気がする」とやんわり批判。「(監督人事は)ルグラエットとディディエの二人だけで議論されるべきじゃないというかね(笑)。嫌なのは、代表監督の未来というテーマが、ルグラエットによって部分的に扱われてしまった点。ジズーもディディエと同じ考慮と注意を払われてしかるべきだ」と断言した。

 一方デシャンの「対立」という言葉については、「彼がそういう分析をしていることに驚いた。ジズーはDD(デシャン)とライバルになんかなっていないよ」と明言。「デュガ(デュガリ)とDDの関係はもうどうにもならない」と諦めつつ、「理想的にはみながとても仲良くなってくれるのを望んでいる」と語った。


 ~~こんがらがった毛糸玉には~~

 さて、もう一人の当事者、ジダンは?

 ジダンはルグラエットの失言問題に、ひと言も反応していない。50歳の誕生日を迎えた昨年6月に「レキップ」紙インタビューを受諾したジダンは、フランスとフランス代表への深い愛を語り、いつか指揮をとりたい夢も隠さなかった。だがワールドカップの快挙を見たジダンは、おそらく誰よりも先に、夢が数年先になると悟ったことだろう。そして音もたてず、静かに、「待つ」と決めているはずだ。

 1月末のスポーツ相の調査を受けて、連盟は10日以内に対応を決めることになっている。ただ、ルグラエット会長は民主主義に基づき選挙で選出された。ひっくり返すには、相当の根拠と正しい民主的手続きが必要になる。また仮にルグラエットが会長職を追われた場合も、デシャン監督の続投そのものについては、ここまでのところ連盟内に異議は出ていない。

 2026年までの長期契約には異論もあるが、契約が切れるとわかっている監督には選手がついてこない事態も起こる。過去のナイスナ事件は、まさにその状況下で勃発した。デシャンが2年ではなく4年延長を要求した背景には、その問題もあるのではないかと思っている。

 ただ、現在のフランスフットボール界をリードするのは、キリアン・エムバペだ。エムバペがデシャン指揮下で団結の要になるなら、フランス代表をまとめるデシャンの巨大なノーハウと力量はまだまだ発揮され得るだろう。だが逆の場合は・・・?

 恐ろしいのは、「DD対ZZ」などという虚構の構図が、カネだけを追求する「メディア」の煽りや嫉妬、個人的思惑や社会的政治的意図に転がされて、ベンゼマ事件のような「こんがらがった毛糸玉」になりかねない点。それだけは避けてほしいと祈るばかりだ。

 「ジズーの番はいずれ回ってくる」。デシャンはかつてこう明言している。DDのフランス代表がEUROを制覇し、エメ・ジャケのようにDDが、煌めくバトンをZZに手渡す――。そんな理想をそっと、勝手に、思い描く私である。

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