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【コラム】海外通信員

「メッシのチーム」 真実の時

[ 2022年11月21日 09:30 ]

調整するアルゼンチン代表FWメッシ
Photo By AP

 ワールドカップが開幕。通常よりも5ヶ月遅れの11月スタートとあって、私の周囲では「前回大会との間隔が長くていつも以上に開幕が待ち遠しかった」と語る人が少なくないが、アルゼンチンの人々にとって、今大会の開幕がいつも以上に待ち遠しかった理由は単なる時間的なものだけではないと思う。

 アルゼンチン代表が南米チャンピオンとして世界の舞台での戦いに挑むのは、94年大会以来28年ぶりのこと。昨年のコパ・アメリカ優勝を機に一気に高まった国内での代表人気は近年稀に見るほどのレベルで、ワールドカップに向けた期待度の高さは、マルセロ・ビエルサ監督によって予選で圧倒的な強さを発揮し、文句なしに優勝候補と言われた2002年大会を彷彿とさせるほどだ。

 そうなると、20年前と同じ結果になってしまうのではないかと悲観的な考え方に走ってしまいがちだが、今のチームにはリオネル・メッシがいる。さらに、メッシにとっても今回は今まで出場した4大会とは大きく異なる点がある。カタールに乗り込むアルゼンチン代表が、真の意味で「メッシのチーム」として仕上がっていることだ。

 チームを率いるリオネル・エスカローニ監督は、経験不足を辛辣に批判されながらも、周囲の声に耳を貸さず黙々とチーム作りに着手し、昨年のコパ・アメリカとワールドカップ予選を通して攻守の各局面における明確なゲームモデルを確立。各ポジションに控え選手を含む適任者を選び抜き、「メッシ依存症から脱却しつつもメッシを活かす」という重大な任務を遂行し、アルゼンチンの人々から愛され、サポートされる理想的な代表チームを作り上げた。

 そして何より、メッシ自身も「グループ内の団結力が半端ない」と語っている通り、エスカローニ監督以下、パブロ・アイマール、ロベルト・アジャラ、ワルテル・サムエルといった元代表OBのコーチをはじめとする指導陣と選手たちが非常に良い関係にあり、チーム全体が最高の雰囲気に包まれている事実も特筆すべだろう。メッシにとって、全員の仲が良く、結束度も高い今のアルゼンチン代表は、あらゆる意味において「安心できる居心地の良いチーム」なのだ。

 そんなチームに期待が集まるのは当然の結果。アルゼンチンの人々が「メッシのチームを早くワールドカップで観たい」と思う気持ちも、開幕までの時間が長く感じられた理由の一つだったのではないかと思う。

 では、「メッシのチーム」は理想的な状態でワールドカップに参戦するのかというと、残念ながらそうではない。メッシ依存症克服の大きな要因となった中盤の要ジオバンニ・ロ・チェルソが、怪我のために欠場となってしまったからだ。

 前回のロシア大会でメンバー入りしながら、当時の監督だったホルヘ・サンパオリの不可解な采配の犠牲となって一度も出場機会を与えられなかったロ・チェルソ。今回は4年前の雪辱を果たす絶好の機会となるはずだっただけに、アルゼンチン国内でも多くの人が彼の欠場を嘆いている。

 その一方、負傷からのコンディション回復がワールドカップまでに間に合わないと思われていた中盤の逸材エセキエル・パラシオスが出場できることとなった。優れた戦術眼とパスセンスを持ち、得点力もあるパラシオスはアイマール・コーチのお気に入りでもある。失態を晒したロシア大会以後、「誰が指揮をしても、誰がプレーすることになっても安定性を維持できるチーム作り」をコンセプトとして強化に務めてきたアルゼンチン代表が、キープレーヤー不在でも構想通りのプレーを演じられるかどうかが大きな見どころになる。

 トップチームの指導経験のないエスカローニに監督を任せるという「実験」は、現時点では好結果を残している。そして今、世界を相手にして力を試す「真実の時」がいよいよやって来た。人々に愛される「メッシのチーム」がカタールでどのような戦いを見せてくれるのか、実に楽しみである。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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