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【コラム】海外通信員

“揺れる”サン・シーロ 3階部分の振動&新スタジアム建設計画

[ 2019年9月20日 06:00 ]

インテル・ミラノとACミランの計画では、6万人収容の新スタジアムで、スポーツエンターテイメント、ショッピングを要する12億ユーロ(約1440億円)のプロジェクト
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 ミラノのサン・シーロ・スタジアムは、3階建ての大きなスタジアムである。その3階席の中央部分には、今シーズンから大きな保護マットが貼られるようになった。17日に行われたチャンピオンズリーグのインテルvsスラビア・プラハ戦ではアウェーのスラビア・プラハサポーターがその3階席に隔離されていたが、その大きな保護マットの両脇に分けられ、やりにくそうにしながらもなんとか声をあげて応援しようとしていた。

 実はこれには理由がある。ある時期から、サン・シーロの3回部分には異常振動と、コンクリートの破片の落下が記録されるようになったのだ。応援の際、ファンはジャンプしながらチャントを歌うことがあるのだが、その時に「ここ数年感じなかった振動がする」「石灰も落ちてきた」いう声がネットにも挙げられるようになった。この3階部分は’90年のイタリアW杯の時に増設されたものだが、29年が経って老朽化が心配されるようになった。その後サン・シーロの所有者であるミラノ市は調査チームを発足させ、一度は「危険はない」という診断結果を発表したが、結局保護マットを敷いてトラブルを回避せざるを得ないという方向になった。

 インテルとミランは、そんなサン・シーロを離れて新スタジアムを持ちたいとずっと計画していた。クラブ占有で、商業展開も自由にすることができる自前の近代的なサッカースタジアムである。当初はそれぞれ別に動いて別のホームスタジアムを建設しようとしていたが、やがて共同でプロジェクトを進めることにした。現在の約8万人から6万人に収容客数を抑える一方、ラウンジなども設置しより営業収益の上がりやすい近代的なスタジアムを作る、という計画だ。建築もクラブがやる、ということならば、ミラノ市にとっても財政上の心配はなくなるわけである。そして新スタジアムが建築完了後、現在のサン・シーロは取り壊されるという算段になっている。

 ところがこの計画は、ミラノ市に難色を示された。ジュセッペ・サラ市長は「サン・シーロはミラノの記念建造物。これを離れたいというのは公の意見と一致するところではない」と批判した。1926年からイタリアのスポーツシーンを支えた名所であるのは事実で、「これを壊すとは何事か」という意見も多い。だがそんな感情的な意味合いの他にも、サン・シーロを壊されては困る事情があるらしい。コンサート会場として貸し出すことで利益が発生する場所でもあるし、2026年のミラノとコルティナ・ダンペッツォ冬季五輪の開会式を行う場所としても決定した。8万収容の既存施設を使用することが、招致計画に明言されていたのだ。ミラノ市の行政は、「既存のサン・シーロを近代的に大改修するのがふさわしい」という意見を持っている。インテルとミランは「新スタジアムを五輪に間に合わせる」と主張するが、サラ市長は「2026年の後だ」と突っぱねている。

 クラブは入場観客数を抑えた設備にしたいという願いを持っている一方で、8万人という入場者数は遵守して欲しいなどとの要望を出される可能性もある。イタリア五輪協会のジョバンニ・マラゴ会長は「クラブと市の問題。開催委員会としては2026年にスタジアムが確保されていればそれで良いと考える」と、争論を拡大しないように努めた。インテルとミランは再度プランを練り直して新築案を提示する見込みだが、果たして受け入れてもらえるのか。いずれにせよ、施設の老朽化が進むサン・シーロの安全対策は待った無し。事故などが起こる前に方針を立てる必要性に迫られているのもまた事実だが、どういう方針になるのか現時点では見えてこない。(神尾光臣=イタリア通信員)

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