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【コラム】海外通信員

ブラジリアンドリーム!サンパウロ州選手権からビッグクラブ、サントスへの移籍

[ 2023年4月26日 17:30 ]

 
Photo By AP

 2023シーズンが始まった。まずはU20大会のコッピーニャで新人の動向をチェックして、新年度の応援のウォーミングアップ、続いて1月末から各州選手権が始まった。ブラジルサッカーの伝統である州選手権は近郊チーム同士のライバル心がむき出しになるという全国大会とは違った味わいがあり、シーズン本番に向けてチーム作りに欠かせないものだ。

 最も注目される州といえばやはりサンパウロ州。州選手権と一言で言っても、欧州の国一つ分くらいで、サンパウロ州は5部まである。

 優勝したのは25回目優勝のパルメイラス。1902年創設からの歴史上、最多優勝は30回のコリンチャンス、ビッグ4のサントスとサンパウロFCが22回。ちなみにナショナルリーグとしてカンピオナート・ブラジレイロが開始したのが1971年からなので、実に約70年の伝統の差があるのだ。

 さて、このサンパウロ州選手権1部、通称パウリストンの2023年度の興味深かったことは、決勝カードがビッグクラブ同士でなかったことだ。パルメイラス対アグア・サンタ。準々決勝でコリンチャンスもサンパウロFCも脱落し、準決勝にビッグ4からはパルメイラスのみ。他はレッドブル・ブラガンチーノ、イトゥー、アグア・サンタという顔ぶれだった。

 アグア・サンタというクラブ名を聞いたことがあるだろうか?サンパウロ市のお隣のジアデマ市に位置する1981年創設の新しいクラブだ。現在の名前になったのは2006年からで、A2というバス会社のオーナーが投資し経営権を取ってからだ。2200万という人口の多い大サンパウロ都市圏でバスの需要は非常に高く、バス会社は非常に収益の上がる企業である。

 ブラジルでビッグクラブ以外は収支の均衡が崩れているところが多いのが現実だが、あグア・サンタはこのパウリストンで結果を出すために、約2200万円の月予算をチームのスタッフと選手全員に使い、決勝進出でボーナス一人約250万円を約束してチームを鼓舞し、見事決勝進出を決めた。ファーストレグこそパルメイラスは1-2でアグア・サンタに負けたものの、ホーム、アリアンツ・アリーナでのセカンドレグでは4-0の圧勝。4万1千人が集まり、売り上げは約1億円と大盛況となった。優勝チームには賞金約1億1000万円、そして準優勝チームには約4000万円が賞金として贈られた。

 これを資金に4月からの全国リーグに繋げるかと思いきや、アグア・サンタは州選手権のみエントリーしており、ナショナルリーグのメンバーではないため、サンパウロ州選手権が終了した時点で解散となった(州選手権は全国リーグの下部ではない)。

 旋風を巻き起こした選手たちは、他クラブへのレンタル、もしくは移籍と活躍の場を求めて出て行った。ブラジルリーグ1部のクラブへ大きくステップアップした選手もいる。活躍したMFのルアン・ジアスはビッグクラブであるサントスに買い取りオプション付きのローン(違約金50%で約1億円)に。5年前2017年にサンパウロ州2部に過ぎなかったアグア・サンタの育成部に加入したルアンにとって、一気にサントスというビッグクラブに移籍にと夢の世界に突入したわけだ。

 ブラジル全国リーグ1部=ブラジレイロン、トーナメント方式のコッパ・ド・ブラジル、南米チャンピオンズリーグであるリベルタドーレス杯も始まった。ブラジルからはフラメンゴ、パルメイラス、コリンチャンス、フルミネンセ、アトレチコ・ミネイロ、アトレチコ・パラナエンセ、インテルナシオナルの7チームが参加。グループリーグが7月まで、そこからノックアウトが始まり11月まで続く。どのチームも並行して何大会も戦い抜くため予算と相談しながらの人材集めに必死だ。

 さて、アグア・サンタのルアンはサントスでブラジリアンドリームを叶えられるだろうか?

 現役選手だけでない。ブラジルには実に多くのブラジリアンドリームを夢見る少年たちがいる。そんな少年たちに朗報がある。日本のスタートアップ、dreamstockが開発した自分を売り込む選手登録をするアプリDSFootballだ。まずは、アプリをダウンロードして登録してプレイ動画をアップロードし、評価結果を待つところから始まる。アプリに公開されるブラジルのクラブのトライアウトに参加することができる。登録者数は70万人を超え、徐々に巨大なサッカーコミュニティーに成長しているところだ。

 ブラジリアンドリームは、途切れることがない。若干16歳、パルメイラスのエンドリッキはすでにトップチームのスタメン。しかも、すでに保有権は7000万ユーロ(約50億円)でレアル・マドリッドに移っている。高校1年生の選手がブラジルのトップクラブのスタメンを張っていることは本当にすごいこと。少年たちの憧れそのもの。エンドリッキに続けとまたまた多くの少年たちがブラジリアンドリームを夢見るのだ。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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