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【コラム】海外通信員

2度にわたる早期解雇 ディエゴ・フォルランの監督としての挑戦

[ 2021年9月28日 13:00 ]

アテナスの監督を解任されたフォルラン氏
Photo By スポニチ

 今月半ば、ディエゴ・フォルランがウルグアイ2部リーグのクラブ、アテナス・デ・サン・カルロス(以下アテナス)の監督の座から解任されたというニュースを聞いて驚いた。フォルランといえば、アテナスの監督に就任することが決まったのはついこの間(3月)のことで、その後ほんのわずかな数の試合(たった12試合)を指揮しただけではなかったか。

 だがそのあと、解雇に至った理由を知ってさらに仰天した。フォルラン本人の話によると、なんとクラブの親会社であるグルーポ・パチューカが試合に出場するメンバー選考に介入したという。それに怒ったフォルランがそのオーナーであるアルゼンチン人アンドレス・ファッシと、その息子でスポーツディレクターを勤めるフアン・パブロ・ファッシとロッカールームで大口論になり、後にクラブ側がZoomで解雇を知らせたらしい。

 そもそも彼がアテナスの監督を引き受けるにあたり、決定的となったのはクラブ側がフォルランとその指導陣の可能性を信じ、彼らが考案した長期強化プロジェクトに全面的に賛同したことだった。それを聞いたとき、フォルランが監督としての最初の挑戦地に選んだウルグアイの名門ペニャロールから解任されたときのことを多くの人が思い出したに違いない。

 フォルランはあのとき不当な理由から辞めさせられることになったが(わずか11試合で成績不振を理由に解雇)、例え正当な理由であっても、ペニャロールのようなビッグクラブでは即結果が、特に国際カップ戦でのタイトル獲得という大きな目標達成が強要される他、内部の政治的な派閥から生じるピッチ外の影響力も大きい。

 一方のアテナスは1部昇格を目標に定め、時間をかけてチーム力の安定を図ろうとしていた矢先で、フォルランが望む「長期的なヴィジョンによる強化」の実施が可能になる。指導者としての経験は浅いものの、南米と欧州、クラブと代表のトップクラスで長年にわたってプレーし、数々の優れた監督からの教えを活かしながら今後自分のスタイルを築いていくため、アテナスはフォルランにぴったりなクラブだった・・・はずだった。

 ところが、それは実現しなかった。フォルランによると、ファッシ親子とはあまりにも激しい口調で口論になったために「顔が崩れた」らしく、「マスクをしていて良かった」との冗談まで言っている。いつも冷静に理路整然と語る彼が「顔が崩れるほど激論した」のがいかに異常な状況であったかがわかれば、その後直接ではなくオンラインで解雇を通達されたという信じ難い展開も理解できる。

 フォルランを激怒させたファッシ親子について少し説明すると、父アンドレスはメキシコのパチューカの親会社であるグルーポ・パチューカのオーナー4人のうちの1人で、アルゼンチンではタジェーレス・デ・コルドバの会長を務めながらクラブのマネジメントも担っている人物。タジェーレスはこのアンドレス・ファッシの手によって破産の危機を逃れただけでなく1部昇格を果たし、現在はリーグ戦のトップに立っている。指導者でありビジネスマンでもあるという興味深い肩書きの持ち主のファッシがタジェーレスの躍進に大きく関係していることは明らかで、私はフォルランがもしアテナスで1部昇格を実現させたら是非とも彼に話を聞いてみたいと思っていた。

 解雇されたフォルランについて、ファッシ自身は「これまでの仕事にとても感謝している」と語ったが、「グルーポ・パチューカはチーム作りにダイレクトに関与する」ため、「我々のやり方にそぐう監督を選ぶ」のだそうだ。

 これは契約前の話し合いでクリアになっていて然るべきポイントであり、フォルランがグルーポ・パチューカのポリシーを理解していなかったということは考えられない。だが、双方のアイデアにズレが生じたことは確か。どちらにも言い分はあるだろうが、フォルランの監督としてのキャリアが「2度にわたる早期解雇」で始まってしまっていることをとても残念に思う。次の仕事先では満足の行くプロジェクトを成し遂げられるといいのだが。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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