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【コラム】海外通信員

大英博物館マンガ展 ザッケローニ氏とキャプテン翼の高橋陽一氏が対談

[ 2019年7月30日 06:00 ]

 ロンドンの大英博物館でマンガ展「The Citi exhibition Manga」が開催されており、多くの人で連日賑わっている。展示期間のイベントとして、国内外で人気のサッカーマンガ「キャプテン翼」の作者高橋陽一氏とサッカー元日本代表監督のアルベルト・ザッケローニ氏による対談イベントが行われた。

 キャプテン翼は約40年前にマンガの連載が始まり現在においても連載が続いている。その人気は日本国内に留まらず、デルピエロ、ジダン、イニエスタ、中田英寿など偉大な選手たちのサッカー人生に多大なる影響を与えてきた。

 作者の高橋氏自身も「こんなにも世界に広がるとは想像もできなかった。」と語るように、国境と世代を超えて普及することは当時から狙っていたわけではなかった。連載を続けるためには、人気マンガとの競争に生き残ることが必要であり、そして週刊少年ジャンプの読者アンケートの反応がすべてであったようだ。

 ザッケローニ氏とキャプテン翼作品の出会いの接点は息子のルカさんがサッカー少年時代にイタリアで放映されていたアニメ放送を毎回のように嬉しく説明してくれるところに始まった。

 「わたしは監督という仕事をしていたために一般的な家庭のように息子と多くの時間を過ごしてきたわけではないが、家に帰る度に息子のルカがキャプテン翼の内容を教えてくれた。スカイラブハリケーンとはなんだ?と熱心に伝えてくれたよ。私が思うにここまで作品がヒットしたのは、キャプテン翼はそれまでのアメリカンコミックのようなヒーロー像とは異なり、サッカー少年たちの日常生活を映し出しており、そこに世界中の少年が自分を投影しながらのめり込んでいったのだと思う。」

 ザッケローニ監督の話す声のボリュームは決して大きくないが、監督には欠かすことはできないユーモアと聴衆の目を一気に引きつける話術も非常に印象的だった。

 この日の第一声は、事前に用意していた話はせずにこんな始まりであった。

 「本日このイベントに声をかけていただけること、とても光栄に思っております。日本は私にとってたいへん特別な国です。高橋さん、今日この対談をするにあたってひとつだけ聞こうと思っていたことがあります。私は監督人生において、最も大事にしてきた概念があるのですが、それはプレーするスペースと時間をどれだけ生み出すことができるのか?もしくは守備の時はそのスペースと時間をどれだけ消せるかということにとても気を使ってきました。ただし高橋さんのアニメ作品を見ていていると、2キロ先にゴールが存在し、到達するまでに30分もかかるときがある。監督としては決して許すことができない。笑。少年たちもサッカーにはこんなに考える時間があるのだと勘違いするかもしれない。高橋さん、これは一体どう説明してくれましょうか?」

 この日はイタリアなど他国などから来ているキャプテン翼ファンも多く、ザッケローニ氏のイタリアを理解できる人々から大きな笑いと拍手が起こっていた。

 それに対する高橋氏の回答は「実はマンガではそういった描写はしていないんです。マンガでは割と忠実にピッチを描いてきたのですが、アニメの放映がマンガの連載に追いついてしまったために時間を稼ぐ必要があった。」というものであった。

 最後にファンたちからザッケローニ氏への質問のひとつに、W杯で日本代表が勝つためには選手たちにより一層のキャラクターやファンタジーが必要なのかという問いかけがあった。

 「私が率いたブラジルW杯の日本代表は強烈なタレントを持った選手たちと戦うことができた。長谷部や本田など非常に個性と才能を備えていた。また、香川に関して言えば、おそらく岬くんのようなプレーをまさしく体現していただろう。日本にはゴール前でパスを好む選手が多かったのは岬くんの影響があるかもしれない。イタリアでは日向小次郎が非常に好まれ、若者は真似をしてシャツを腕まくりしていた。日本から日向のようなストライカーが生まれてこないのが不思議であり残念だった。いずれにせよ私は日本を愛しており、ヨーロッパの国々が学ぶべきことがたくさん詰まった文化であると思っている。」

 ブラジルW杯から5年の月日が流れた今でもザッケローニ氏の日本に対する愛情は変わらないようだ。高橋氏からも「ぜひとも日本でJリーグのチームを率いてほしい」と声をかけられイベントはお開きとなった。ザッケローニ氏はアジア杯ではUAE代表を準決勝へと導くなど、監督としての結果を今でも出し続けている。今後のJリーグ監督就任は現在のところ可能性は低いとのことであったが、日本での第二の幕にぜひとも期待したい。(ロンドン通信員=竹山友陽)

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