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【コラム】海外通信員

ブラジルサッカー2020年シーズンはパルメイラスの圧勝

[ 2021年3月6日 06:00 ]

 現在、アメリカに次いで世界で最も新型コロナの死者数(25万人を超えた)が多いブラジルだが、自分の肌感覚で言えば、感染をしたという友人はいるが、身近な大事な人を亡くすという経験はしておらず、正直なところピンと来ていない。決して緊張を緩めているわけではないが、街の中の車の数も日に日に増え、レストランに行けば、それなりに人が戻っている様子を見ると、ワクチン接種も始まったし、徐々に良くなってきているのでは・・、という勘違いをしていた人は多かったのではなかろうか。

 ブラジルでは1月17日から新型コロナに対するワクチン接種が始まった。医療従事者、高齢者などが優先接種を受けているが、3月4日の時点で約2億人の人口の約4.7%である。日に日に接種者の数は増えているものの、この先若者世代にまで接種が行き渡るには、まだまだ時間がかかる見込みだ。一方で、第2波到来で重症者の数は再び増加し、1日の死亡者数は1910と過去最高を記録した。変異のアマゾン株が広がり始めていると言われ、これまで目立たなかった南部の州で感染拡大が激化し、重症化患者の対応が追いつかない状況に来ている病院もある。
 

 サンパウロ州では、年末年始の週末の外出自粛、一般店舗の営業自粛を命じ、2月のカーニバル時期は、パレードの中止はもちろんのこと、任意休日をキャンセルし、平日扱いをして人々の動きを止めようとしてきた。改善の兆しが見えたことで、緩和策が取られ、学校の対面授業が始まり街の中の人の動きは間違いなく以前よりも活発になっていた。

 しかし、この後わずか1ヶ月で事態は急変になった。今年は夏の暑さが長引きビーチに行く人も減らないし、カーニバルが無かったとはいえ気分の高まりでレストランやバールなども人出が増えた。

 一気に新型コロナ対応病院のICU病床数が逼迫となってきた。そこで、ドリア州知事は3月6日から2週間の厳しい外出自粛、営業自粛を発令した。保健・医療、スーパーなど食料品販売、交通・運輸、警備、建築、工業、公共通信などの生活必需活動のみ営業が許可。レストランはこれまでも8時以降のアルコール提供禁止を行ってきたが、この2週間はデリバリーかピックアップのみで、夜間は20時から翌朝5時の外出禁止と厳しくなる。昨年の厳しい危険度1の外出自粛期をへの逆戻りとなるが、この2週間が正念場と言われている。

 このようにコロナに翻弄されている状況の中、2020年度のブラジルサッカーシーズンが終わろうとしている。ブラジルではシーズンの始め(1月から4月)に各州選手権が行われる。これは全国リーグの下部リーグではなく独立した大会なのだが、昨年は州選手権の開催中に新型コロナの感染が広がり中断を余儀なくされた。4ヶ月の中断後、7月に再開して8月に全行程を終え、その翌週から全国リーグが始まって、今やっと終わったところだ。

 優勝は2年連続でフラメンゴが決めた。優勝監督は、11月に就任した元サンパウロFCの守護神で、元ブラジル代表GKのロジェリオ・セニ48歳だった。監督になってわずか3年でブラジルサッカー界の頂点を極めることとなった彼は、現役時代にGKにも関わらず131ゴールをマークしたGKの世界最多ゴール数記録保持者である。常にゲームを最後方から見て指示し続けた経験は監督となって大いに生かされている。

 カンピオナート・ブラジルレイロのトロフィーは手にしなかったが、今シーズン快進撃を見せたのは、パルメイラスだった。
 出場したトーナメント大会、サンパウロ州選手権、リベルタドーレス杯、コッパ・ド・ブラジルと全て決勝戦に駒を進めるという快挙をしている。このうち、サンパウロ州選手権とリベルタドーレス杯を優勝した。内容はあまり良く無いのだが・・・。

 コッパ・ド・ブラジルはグレミオとのファイナルのファーストレグを勝利し、残すは3月7日のセカンドレグのみで王手をかけている状態だ。

 これだけの結果を残せたのは、やはり元々持っていたパルメイラスの安定した財政事情が大きな力となった。カンピオナート・ブラジルレイロ1部で最下位が決まったボタフォゴと比較してみると、ボタフォゴはここ数年厳しい財政事情であり、人件費の支払いも、選手のサラリーも遅れがちで、フロント陣、クラブ運営の混乱などがチームのパフォーマンスに影響した。今シーズンだけの選手一人一人の努力とか、監督の采配がというレベルではない。来シーズン2部を戦うためますます収入が減ることになり、頭が痛いどころの話では無い。一方、ヒッコ(リッチ)なパルメイラスは、すでに始まっている2021年シーズンへの金策は整っている。

 リベルタドーレス杯は99年の初優勝以来2度目の優勝を手にして、その翌週にはブラジルを旅立って、カタールで開催のクラブW杯に出場した。準決勝で敗退、3位決定戦でも負け、南米チャンピオンとして歴代最低の順位に甘んじたわけだが、約2億円を受け取ったということは極めて重要だ。リベルタドーレス杯優勝で手にした賞金やスポンサーからのボーナスなどで約30億円を得た。パルメイラスは、2021年度を赤字でなくプラスから始められるクラブという強みを持つ。

 ブラジルにおけるサッカークラブはサッカーチームだけではなく、社交、総合スポーツクラブとして様々な施設や各種スポーツのチームを抱え、多くの職員を抱える大きな団体である。固定支出費、人件費は例外なく毎月出て行く。ほとんどのクラブが2019年度と比べて約50%以上のマイナス状態になり、削れるところは削っても毎月の収支は赤字にならざるを得なかった。そうなると、欧州のクラブに選手を放出することで外貨を稼ぐという手段が有効になる。ブラジルの通貨がユーロに比べて格安ということで、欧州のクラブは買ってくれる。良い選手はどんどん海外に売ってチームを刷新せざるをえない。しかし、お金があるチームは、良い選手をキープし、さらには補強もでき、層を厚くできる。現在のパルメイラスは、下部組織出身の若手選手をすぐに売ることなく育てることができるのだから、もう少しピリッとした内容のサッカーをして欲しいものだ・・・。

 さて、パルメイラスはFIFA世界クラブW杯では悔しい(情けない?)結果で悲願の世界タイトルを取りこぼしてしまい、同じサンパウロ州のライバルたち、コリンチャンス、サンパウロFC、サントスのサポーターから『世界一になっていない』とバカにされる屈辱を受け続けることとなった。さてさて、2021年シーズン、新たな歴史を作ることができるだろうか。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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