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【コラム】海外通信員

スーペルリーガ優勝を狙う2クラブの横顔

[ 2019年2月25日 20:30 ]

インテル・ミラノ(イタリア)に在籍した頃のディエゴ・ミリート氏。ゴールを決めて長友(当時)と肩を組んで喜ぶ(2012年12月9日撮影)
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 この原稿を書いている時点で、今期のスーペルリーガ(アルゼンチン1部リーグ)も残すところあと5節。数学的には3位以下のチームにも可能性が残されているものの、優勝争いは首位攻防を展開するラシンとデフェンサ・イ・フスティシア(以下デフェンサ)の2チームに絞られたと考えていい。

 ラシンはアルゼンチンの5大クラブの1つで、創立から今年で115年を迎える。国内リーグ優勝17回、1967年には南米王者を決めるコパ・リベルタドーレスでも優勝した歴史を持つ古豪。一方のデフェンサは1935年に設立された比較的新しいクラブで、2014年にようやく昇格した1部リーグでの優勝歴もなければ、国際タイトルも獲得したことがない。こういった視点から判断した場合、ラシンとデフェンサは全く対照的なチームということになる。

 だが両チームは、アルゼンチンサッカー界では稀に見る試みを行っている点で共通している。

 まずラシンの場合、昨年1月からクラブOBのディエゴ・ミリートがディレクターを務めるセクレタリア・テクニカ(技術部)を設け、予算とチームの現状に見合った選手の補強を実施している。

 ミリートと言えば、サラゴサやインテルといった欧州での活躍がまだ記憶に新しく、日本のサッカーファンの間でも馴染みの深い人物。古巣ラシンに復帰した2014年に文字通りチームを背負ってリーグ優勝を果たし、2016年に現役を引退したばかり。その後、自分が欧州でプレーしていた時期に知ったセクレタリア・テクニカの有効性をラシンでも活かしたいと考え、ビクトル・ブランコ会長の全面的なサポートを得て1年前に始動した。

 ラシンのセクレタリア・テクニカにはスカウティングとデータ解析のプロ4人がスタッフとして常勤している。いずれも20代前半から30代前半の若いスタッフだが、アルゼンチン国内はもちろん、南米各国のジュニア、ユース世代からトップチームの選手までのプレーを視察、データを収集し、タイプ、パフォーマンス、コンディション、コストの面から各カテゴリーに最適と判断した選手のリストを作成し、随時更新するという細かい作業に打ち込んでいる。

 欧州のクラブでは普通に行われていることだが、アルゼンチンでここまで徹底したシステムを起用しているクラブは今のところラシンだけだ。一部の代理人によるビジネス優先の移籍がまかり通る中、ラシンはあくまでもセクレタリア・テクニカのデータに基づいた補強にこだわり、赤字に苦しむクラブが多いアルゼンチンにおいて昨年はクラブ史上最高額となる黒字を記録。ミリートは当初、「セクレタリア・テクニカの仕事の成果が見えるまでには時間がかかる」と話していたが、昨年から安定したチーム力で首位の座を維持し続けている。

 デフェンサの場合は、2014年に1部に昇格してから現在に至るまで、監督と選手が変わっても同じプレースタイルを貫くというシンプルな方針から結果を出している。

 低予算から高額な選手を買い取ることはできないため、毎シーズン、他のクラブで出場機会を失った選手を寄せ集めてチームを作っているが、高い位置でのプレッシングと、GKから始まるショートパスを駆使したビルドアップを基本とするプレースタイルをモットーとしていて、劣勢になっても細かいパスワークで地道に得点チャンスを探求し続ける姿勢を崩さない。当然このスタイルに適した監督を選ぶことが必須条件となり、その意味ではデフェンサのクラブ幹部が優れた人選を行っていると言えるだろう。

 現在デフェンサの監督を務めるのは、38歳の若き指導者セバスティアン・ベカセッセ。13年間にわたってホルヘ・サンパオリのアシスタントコーチとして従事し、2015年にはチリ代表のコパ・アメリカ初優勝に貢献。昨年のロシアW杯でもサンパオリとともにアルゼンチン代表の指導にあたったが、大会後はサンパオリから離れ、自身にとって2期目となるデフェンサの監督に就任した。

 どちらが優勝しても、会長以下クラブ幹部が変わるたびにトップチームの方針ががらりと変化するアルゼンチンにおいてなかなか実行できないそれぞれの取り組みが注目され、高く評価されるきっかけになることは間違いない。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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