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【コラム】海外通信員

ネイマールの移籍騒動で喜んでいるのはPSGと新スポンサーのアコーホテルチェーン

[ 2019年9月17日 15:30 ]

<14日・パリSG 1-0 ストラスブール>今季リーグ戦初出場で、後半アディショナルタイムに決勝弾を決めたパリSGのFWネイマール(ブラジル)
Photo By AP

 ネイマールが3ヶ月ぶりにピッチに戻ってきた。9月6日アメリカで行われたコロンビアとのテストマッチでネイマールが1アシスト、1ゴールと存在感を思う存分に見せつけた。ここ数ヶ月のネイマール劇場の話題から、やっとピッチというプレーヤーとしての本来の舞台に戻ってきたのだ。

 6月5日、カタールとのテストマッチで怪我をしてコッパ・アメリカを離脱してからというもの、試合に出てないにもかかわらずメディアにその名が出ない日はなかった。

 コパアメリカ前のレイプ騒動から、移籍問題について様々な情報が飛び交った。ちなみに、レイプ騒動は9月12日に最終的に被害を訴えたナジーラが証拠品を提出しなかったり、証言が二転三転し、ネイマールは不起訴、無罪放免で幕を閉じた。この件に関しては、ナジーラの偽証が多すぎて世論はネイマールの味方というか、アンチ・ナジーラとなった。結局は、ネイマールの浅はかさ加減を露見することとなったが、こちらのノヴェーラ(テレビシリーズ)は過去のこととなった。

 しかし、もう一つのノヴェーラである移籍問題はまだまだto be continuedだ。当初、バルサとレアルが争奪戦かと騒がれたが、ネイマールは最終的にはどちらでもいいからPSGでのCL優勝を見限って出たかったのだろう。スペイン語はとてもポルトガル語に似ていて覚えやすかったが、フランス語は文法は似通っているが発音の違いが多く簡単にはマスターできない。風土も異なる。ブラジルと似通ったサッカー文化を持つスペインでのびのびプレーしていたことが恋しくなったのだろう。

 バルサを出たのは、メッシがいる限りCLで勝とうとも自分がバロンドールを獲ることはできないから、他のクラブで世界最高のチームを作ろうと思ったのはわかる。と同時に、一度バルサを出て他のクラブを経由して最終的にレアルに行きたいという野望も持っていたはずだ。14歳の段階でレアルかサントスかの究極の決断をした時、ブラジルに残ることを選んだ。それでも、レアルとの関係が悪化したわけではなかった。

 なによりも、ネイマールのマーケティングビジネスの師匠は怪物ロナウド。ロナウドの会社がネイマールのマーケティングを請け負っていたこともあり、ロナウドからさまざまなアドバイスを受けていただろう。

 ロナウドはバルサとレアルという宿敵のライバル両方で実績を残し英雄になった数少ないプレーヤーだ。現在、ロナウドはスペインのヴァリャドリードを買い、久保建英のレンタルクラブとしても手を挙げたくらいで関係は良好だ。欲張りな考えで、あわよくば「レアルに行けたら、」と思い、行けなくとも「せめてバルサに戻りたい」と動き出したと考えられる。

 さて、ネイマールという名前ばかりが注目されるが、ネイマールという1人の若者の周囲には「ネイマール株式会社」の社員がたくさんいる。またこの「ネイマール株式会社」の株主もたくさんいる。ネイマールがわがままだと色々言われるが、彼1人の希望だけで物事は動いていない。彼はマネーゲームの金融商品であり、投機商品なのだ。

 バルサからPSGへの移籍であまりに莫大なお金が動いた。ネイマール自身はもう使いきれないお金を手にしている。しかし、彼はそれほど幸せに見えない。

 友達には事欠かない。しかし、愛する息子とは一緒に住めない。息子には新しい家族ができ、弟が生まれようとしている。

 なんどもくっついては別れた人気女優のブルーナはネイマール無しにキャリアをどんどん高めている。ブルーナはネイマールの彼女でなくても、ブルーナとしての価値を認められている。

 有名になればなるほど、お金持ちになればなるほど、周囲にさまざまな人が現れ、誰を信用していいか疑心暗鬼になってもおかしくないだろう。女性しかり。彼の周囲には美しい女性がたくさんいるだろう。彼を利用しようとする輩も当然いる。それが今回のレイプ騒動につながった。彼には父親、母親、妹と家族がいる。しかし、彼が本当に愛し、お金やステイタスでない素のネイマールを愛してくれる人とまだ結ばれていない。

 ネイマールのあだ名は『メニーノ・ネイ=ネイ少年』。いつまでたっても少年のままだと言われるのだ。「株式会社ネイマール」の社長は父ネイマールだ。無防備な言葉を発して騒動になる浅はかさと、父親のいいなりになっている姿勢を国民は皮肉るのだ。

 有名な選手なら罵声を浴びせられるのも仕事だ。それもサラリーに含まれている。しかし、いつのまにかすっかり悪者扱いされるようになってしまった。

 コロンビア戦でコロンビアのサンチェスに激しいタックルをされ、明らかにファイル無視でPKなのに、審判はなにもしてくれない。ネイマールは間違いなく、どんな対戦選手にとってもやっつけてやろうというターゲットであり、多少バイオレントでも、許されるような風潮になっている。しかし、これらの流れ、批判を変えるには良いプレーを見せるしかないのだ。

 9月11日には、もう一つのテストマッチ、対ペルー戦が行われた。ブラジルはペルーに0-1で敗戦。コロンビア戦は内容は良かったとはいえ引き分けに終わった。コパアメリカ王者と思えぬ結果となった。

 このペルー戦でレアルのヴィニシウス・ジュニオールがA代表デビューを飾った。華々しいデビューとはならなかったが、今後ネイマールとの良いコンビ、ネイマールの後継者として成長してくれれば、ブラジルに新しい風が吹いてくれるだろう。

 次の冬の移籍シーズンに向けてネイマールの移籍ノヴェーラはまだまだ終わらない。それまでは今いる場所、PSGで結果を出し続けるしかないのだ。PSGとしては、このネイマール・ノヴェーラに不機嫌さを現していたが、実のところほくそ笑んでいる。今季からPSGの胸スポンサーがエミレーツ航空から世界最大のホテルチェーン、フランスのアコーになる。アコーのマイレージプログラムである『All』がこの先3年間胸に輝くことになる。

 ラテン・アメリカ最高経営責任者のパトリック・メンデス氏は「良いニュース、悪いニュースにかかわらず、ネイマールがPSGの話題を世界に流してくれることは最高のパブリシティでマーケティング的に大きな影響を与えてくれる。」と大喜びだ。

 このパートナーシップ提携により、アコーチェーンの認知度をさらに知らしめる。

 「PSGは世界中でファン獲得の投資を行なっている。ファン層はラテンアメリカで22%、カタールを始め中東で20%、中国で20%となっているが、もっと世界中にPSGの名を広めてファンを獲得したい。この先、アコーホテルズではPSGの試合にホテル内のレストランやバーで試合を流したり連携してホテルの顧客、PSGのファン獲得に務める方針だ」

 パブリシティに巨額をかけずともネイマール効果で世界中に連日PSGの名前が流れ、人々が口にする。デジタル社会の情報戦においてこれほど効果的で注目されやすい方法はない。これこそがPSGが簡単にネイマールを手放さない理由というのもわかる。

 サッカーは巨大なビジネスだ。『少年ネイ』は自分だけの気持ちでサッカーをやるわけにはいかない。『ネイマール株式会社』の投資商品として、彼にがんばってもらわないと困る人たちがたくさんいるのだ。彼は14歳の時から商品としての役割を叩き込まれているから、まだしばらくその役割を果たすことだろう。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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