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【コラム】海外通信員

なでしこジャパンがサッカー王国ブラジルに降臨(前編)

[ 2023年12月15日 23:00 ]

 
Photo By スポニチ

●桜色のユニフォーム

 ブラジルの中心都市サンパウロの大人気クラブ、コリンチャンスのホームスタジアムに八咫烏のシンボルとJapao(日本)の文字が現れた。2014ブラジルW杯の舞台となったコリンチャンスアリーナに美しい桜色のユニフォームを着たなでしこ達が降臨した。

 ブラジルの燦々と照る太陽の下、黄色のセレソンに対し、日本を代表する花であるさくらカラーは淡くもキラキラとまばゆい光を放っていた。

●サッカー王国

 今年、ブラジルはサッカーで世界中の人々に幸せをもたらしたキング、ペレを失った。が、ブラジル代表の”セレソン”は世界で唯一W杯5回優勝、全てのW杯に出場している唯一の国として、サッカー王国であり続けている。

 日々の生活に、どこにでもフチボウFutebol=サッカーが漂っている。目を開けなくても、勝手にサッカーの話題が耳に入ってくる。

 先週の水曜日、ブラジルサッカーの頂点を決めるブラジレイロン=ブラジル全国リーグ1部が終了した。最終節まで試合の結果次第で4チームが優勝の可能性があるスリリングな展開の中、勝利を収めたパルメイラスが2連覇をした。試合が終わった数秒後のことである。サンパウロの街のあちこちで花火の音がバババーと鳴り響いた。

 テレビで試合を見ていなくても、「ああ、パルメイラスが優勝したんだな。」と分かるのだ。

 そんな王国では、その昔”日本人=ジャポネス”はサッカー界の”下手”という意味だった。今は欧州で活躍する日本人選手も多く、下手などと呼ばれる時代ではなくなった。

 それでも、200万人という世界最大の日系社会がありながらも、プロサッカー選手として日系人が、もしくは日本から来た日本人がブラジルのトップレベルでスセッソ(サクセス)をするのは非常に少数派であることや、日本代表がW杯でベスト16以上に進んだことがないことを考えれば、サッカー界における日本=ジャポンは、まだ格下の位置付けであることには変わりない。

●ブラジルの女子サッカー

 というのは、男子の話しだ。女子サッカーとなると立場は逆転する。間違いなく、日本代表女子はブラジル代表よりも高い景色を既に見ている格上としてリスペクトされる。

 1991年から始まった女子サッカーW杯8回の歴史でブラジルは一度も優勝をしていない。五輪もまだ金メダルを取ったことはない(銀メダルは2回)。

 女子サッカーに価値を見出してこなかった時代が長いのだ。ブラジルにおいてフチボウは相撲のような存在だった。スポーツカテゴリーを超えた、サッカーという唯一無二の国のシンボルだった。

 「フチボウは女のやるもんじゃない。」

 子供の頃、そう言われ続けたのは、FIFA最優秀選手賞を6回受賞しているブラジル女子サッカーの英雄、マルタだった。マルタはPele de saiaスカートを履いたペレと言われるほど、ペレと並ぶブラジルサッカー界のレジェンダだ。

 信じられないかもしれないが、サッカー王国で女がサッカーをすることは珍しく、大きな偏見が当たり前だった。男の子の中で一人の女子としてボールを蹴ってきたマルタは悔しさをバネに強くなっていった。マルタはずっと女子サッカーの地位向上のため戦い続けてきた。

 2019年の女子W杯でブラジルが準決勝で敗退した時、マルタはカメラに向かって叫んだ。

 「最後は笑うために今泣いておくのよ。もっと練習をして。自分をケアして。90分戦っても、まだあと30分走れるくらいの準備をして。フォルミーガ、クリスチアーニ、マルタがずっとプレーできるわけじゃない。女子サッカーが生き残るにはあなたたち次第なの。自分たちの価値をもっと高めて!」

 次世代のブラジル女子サッカーを担う若い選手たちに託した熱い思いが身体中から溢れ出ていた。

 あれから4年。ブラジル女子は2023年W杯でグループリーグで敗戦した。しかし、それは新生女子カナリア軍団にとっての始まりの章なのだ。パリ五輪の切符は既にゲットしている。メンバーの多くは海外でプレーし、国内の女子サッカーマーケットは大きく躍進してきた。間違いなく世代交代が進んでいる。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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