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【コラム】海外通信員

CLめぐり宿敵同士の泥沼激戦が…波乱とサスペンスだらけになったフランス

[ 2019年5月8日 19:45 ]

パリSG・スポーツディレクターのアンテロ・エンリケ氏との不和が噂されるトーマス・トゥヘル監督
Photo By AP

 フランスリーグが波乱とサスペンスだらけになっている。

 当初国内3タイトルを総なめにするとみられていたパリSG(PSG)は、マンチェスター・ユナイテド(MU)にまさかの「ルモンタダ」(レモンタダのフランス語読み)を許しチャンピオンズリーグ(CL)から脱落して以来、ガタガタに。

 1月に敗退したリーグカップばかりか、4月末にはフランスカップまで決勝で逃し、リーグ優勝は決めたもののだらしない終盤を送っている。すでに主力級を含め選手売却は必至で、スポーツディレクター(SD)のアンテロ・エンリケVS夏のリクルーティングを仕切りたいトーマス・トゥヘル監督の冷戦に加え、ユースのチアゴ・モッタ監督VSエンリケSDの紛争も勃発、「クラブ内は戦争状態」(サポーター)だ。

 酒井宏樹が所属するマルセイユ(OM)も、大波乱に見舞われている。目標だったCL出場はおろか、ヨーロッパリーグ(EL)さえ取りこぼし(現在6位)、リュディ・ガルシア監督の首は救えない可能性が高い。選手の大掃除も避けられない様相だ。

 そんななかで5月5日、CL直接出場をかけた天王山マッチがおこなわれた。2位リールを3位リヨン(OL)がホームに迎えたのだ。もしOLが勝てば勝ち点差3でリールに迫り、2位争奪戦が最終盤にもつれこむはずだった。ところがリヨンは激戦の末ドロー(2-2)に泣き、結局勝ち点差は6のまま。数学的には未決定だが、どうもリールが勝ち抜けそうな気配だ。

 問題はここからである。これでリヨンは、泥まみれの戦場に投げ込まれてしまったのだ。

 なんと歴史的宿敵サンテティエンヌ(ASSE、現在4位)が、わずか1点差でリヨンを追い上げ、予想外の3位争奪戦が出現してしまったからだ。

 OMもモナコも自滅したなか3位に終わるだけでも、ヨーロッパカップ連続23回出場を誇るリヨンにとっては大失敗である。とはいえ3位なら、プレーオフ経由であっても何とかCLに参戦できる。

 だがもし4位に落ちてCLを逃し、しかも宿敵サンテティエンヌが3位に出て歴史的CL出場を果たす事態となれば、これは悪夢も悪夢。OLにしてみれば「屈辱」以上の「大惨事」となる。

 そもそもリヨンの今季も波瀾万丈だった。いや、前代未聞の異様な展開だった、と言うべきかもしれない。

 若い選手たちは、強豪相手に大活躍するかと思えば、格下相手にダラダラし、乱高下を繰り返した。一部過激派サポーターはクラブ出身のブリュノー・ジェネジオ監督を個人攻撃し、ジェネジオ解任=有名監督招聘を要求。選手たちもそれをいいことに責任逃れしてきた。

 そして事件が起きた。

 サポーターのプレッシャーを受けたジャン=ミシェル・オラス会長が、ジェネジオ監督の去就についてフランスカップ準決勝レンヌ戦後に発表すると公約。会長の本音は「来季も続投」だったと言われている。普通に発表すれば過激派の反発を呼ぶが、フランスカップ決勝進出の熱狂のなかで発表すれば反発もしのげると踏んだのだろう。老獪な会長らしい計算だった。実際メディアもジェネジオ監督に笑顔が戻ったと報道、両者間ではすでに合意ができている様子だった。

 ところが――。フットボールはそんなに甘くない。4月2日、リヨンはレンヌに敗れ去ってしまったのだった。「試合を戦う前から勝利を前提に考えるなど、天に唾するようなもの」(ギー・ルー元オセール監督)の言葉どおり、慢心は必ず裁かれるのである。

 こうしてシュールな光景が出現した。試合後オラス会長は監督を隣に座らせて記者会見し、まず「メディアが嘘を書いた」と奇襲攻撃、「もともとブリュノーを自動続投させようなどとは思っていなかった」「今日発表する予定にしたのも、ブリュノーから去就問題を急かされたため」と自己防衛したのである。隣に座らされた監督は目も虚ろで、見るのが気の毒なほどだった。

 それでも監督は耐え忍び、質問にも「会長の言う通りです」「閉幕時にCL出場を残すのが自分の責務です」と答えてクラブを守ったが、「この世のものとは思えない月面会見」「せめて会長一人で会見すべきだった」「非人間的でエレガントさに欠けた」の声が噴出した。フランス一のコミュニケーション達人と言われてきた会長が、おそらく初めて味噌をつけた日だった。

 そしてここから全てが狂ってしまった。監督は針の筵(むしろ)に座りながら必死に采配するも、リヨンは連敗。やがて監督は、クラブと会長の利益を守るために「今季閉幕をもって辞任する」と発表、みずから捨て石となって選手たちの責任を喚起した。

 これは一定奏功し、その後は2連勝と持ち直した。だが前述のリール戦ではドロー。ウセム・アウアーはこう告白している。「後ろにつけているのがサンテティエンヌだという事実は、少し緊迫させるし、当然、さらなるプレッシャーになった」。そのサンテティエンヌはと言えば、俄然モチベーションが上がっている状況だ。

 要するに、フランスで最も熱いダービーが、CLという煌めく舞台をめぐって激しく白熱しそうな気配なのである。

 しかも――。次節5月12日のカードも半端じゃない。リヨンはなんと火山ヴェロドロームでOMと激突である。全てをフイにしてかえって解放されたOMがリヨンに襲い掛かるか、それとも激怒したOMサポーターがOMに襲い掛かってリヨンを助けるか。一方サンテティエンヌは、煮えたぎる「ショドロン」(溶鉱炉)にモンプリエ(現在5位)を迎え撃つ。

 ちなみに昨年2位だったモナコはと言えば、降格の危機に(現在17位)。こんなサスペンスだらけになるとは、誰一人予想していなかった。泥沼の戦場で3位をものにするのは、リッチでやや高慢なリヨンだろうか、はたまた労働者魂を保つサンテティエンヌだろうか。(結城麻里=パリ通信員)

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