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【コラム】海外通信員

北米で開催された南米選手権

[ 2016年6月25日 05:30 ]

先制弾を決めたラベッシ(中央)に駆け寄るアルゼンチン代表FWメッシ(左)
Photo By AP

 アメリカで開催されているコパ・アメリカ・センテナリオは、この原稿を書いている時点で準々決勝が終わってベスト4が出揃ったところ。準決勝に進出したのはホスト国アメリカ、アルゼンチン、コロンビア、そしてチリ。ウルグアイやブラジルといった伝統のある強豪国がグループステージで敗退し、さらに優勝候補と呼ばれたメキシコが準々決勝でチリに7-0という歴史的敗北を喫するなどの番狂わせが起きている他、リオネル・メッシが代表通算得点数でガブリエル・バティトゥータの記録に並んだことも話題となり、なかなか面白い展開となっている。

 だが正直なところ、この「面白い」という言葉は今だから出てくるのであって、開催前からこのコパ100周年記念大会が注目されていたかというと、少なくともアルゼンチンではそうではなかった。

 そもそもアルゼンチンでは、応援するクラブのために欠かさずスタジアムに足を運ぶコアなサッカーファンは代表戦には興味を示さないので、リーグ戦もカップ戦もない今はサッカーから離れた日々を送っている。私の知り合いのボケンセ(ボカ・ジュニオルスのファン)たちの大半も、来月再開されるコパ・リベルタドーレスの準決勝のことばかり考えながら、今はバカンスの真っ最中にある。

 そしてやはり、この大会が「記念大会」というシンボル的なものであること、本来「南米選手権」であるはずの大会に、普段は「招待国」として参加するCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)の国々が全16カ国のうち6カ国も出場していること、しかも開催国が南米の外(アメリカ)ということで、アルゼンチンの著名なジャーナリストがテレビで堂々と「今回のコパはどうせコパ・デ・レチェ(ミルクカップ=価値のないカップ戦)だから」と話していたほどで、注目度は低かった。ブラジルはネイマールをコパアメリカのメンバーから外してリオ五輪に出場させるオプションを取り、ウルグアイは負傷から回復中だったルイス・スアレスの起用を急がず、代表に帯同させながらもリハビリに専念させた。当の選手たちは決して「本気で挑んでいない」わけではないが(本気でなければ、交代出場できると思い込んでアップしたのにプレーできないとわかったスアレスがベンチで怒りを爆発させることはなかった)、南米の強豪国の一般人にとっては、例え結果を残すことができなくても痛くもかゆくもない大会となるはずだった。

 ところがどうだろう。私たちはまず、スタジアムが毎試合、母国を応援する大勢のサポーターで埋め尽くされている光景に驚かされた。通常のコパアメリカでは、各国のサポーターがこんなに集まることはない。

 彼らの大半は、アメリカに在住する南米出身の移民たちだった。普段、母国の代表戦を観る機会に恵まれることは少ないため、この機に全米から南米の移民たちがスタジアムに集結したのである。各会場は、アメリカの近代的なスタジアムの造りも重なって、まさにワールドカップのような雰囲気に包まれていたのだ。いくらテレビの前でしらけていても、現地でこれほどのサポーターが集まって盛り上がっていれば、もともとサッカーが好きな南米の人たちはそそられて当然。アルゼンチンでは開幕から徐々に視聴率が上がり、準々決勝のチリ対メキシコ戦がケーブルテレビで放映されなかったことに対する苦情が溢れたほどだった。EURO開催の裏でコパアメリカがこれほど注目を浴びるとは、誰も予想していなかった。

 グループステージ24試合が終わった時点での観客動員数は98万8723人。なんと1試合平均4万人を超える数字である。ワールドカップと比較すれば少ないが、通常のコパアメリカでは平均2万人であることを考えれば答えは明らかだ。CONCACAFの中では、ゴールドカップ同様、コパ・アメリカを毎回アメリカ開催にするという提案も出ているらしい。南米と比べて治安も良く、インフラも整っていて、サポーターたちも大勢集まるとなれば、悪いアイデアではない。

 今のところ、南米サッカー連盟はそんなアイデアに耳を貸す気もなく、次回の2019年大会は予定どおりブラジルで開催することを発表。ウルグアイとボリビアのサッカー協会からは今回のアメリカ開催に対する批判的な意見もすでに出ている。

 だが今大会の盛り上がりと成功から、近い将来「南米選手権の北米開催」が定着する可能性はないと言い切れないだろう。アメリカは、今大会に相応しいホスト国だった。大会が大盛況のまま無事に終わることを心から願っている。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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