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【コラム】海外通信員

古巣に戻ってきたダレッサンドロ

[ 2016年2月13日 05:30 ]

アンドレス・ニコラス・ダレッサンドロ(フォトガンマ)
Photo By 提供写真

 「アンドレス・ダレッサンドロが13年ぶりに古巣のリーベルプレートに復帰するようだ」というニュースが流れ始めたのは、アルゼンチン時間の去る2月3日朝のこと。リーベルのファンにとっても、ダレッサンドロが所属していたブラジルのインテルナシオナル(以下インテル)のファンにとっても、あまりにも急で衝撃的な知らせだった。

 新たなシーズン開幕に向けて、大掛かりな補強はできないと諦めていたリーベルにとって、クラブ育ちのベテラン名手の復帰は思いもよらぬ朗報だったが、インテルのファンは突然の移籍の噂に困惑するばかり。なぜならダレッサンドロは、インテルのキャプテンとして、ファンから尊敬され愛される人気者だったからだ。

 インテルのサポーターたちは、3日の朝、「移籍するかもしれない」という情報を聞き入れてかなり動揺したようだ。SNS上では「我々のキャプテンがチームを去るなんて信じられない」という嘆きの書き込みが溢れ、「たちの悪いジョークであってほしい」と言う人さえいた。

 カベソン(頭でっかち)の愛称で親しまれるダレッサンドロは、01年、ホセ・ペケルマン監督率いるアルゼンチンのU-20代表メンバーとして、幼馴染のハビエル・サビオラ、現在リーベルの中核としてプレーするレオナルド・ポンシオらと一緒に世界チャンピオンに輝いたあと、02年にドイツのヴォルフスブルクに移籍。その後ポーツマス(イングランド)、サラゴサ(スペイン)と渡り歩いてから母国のサッカーに復帰したが、サインを交わしたのはリーベルではなくサンロレンソ。そのままアルゼンチンでプレーし続けるかと思われたが、半年後にブラジルの名門クラブへの移籍が決まった。

 サッカーにおいてはライバル関係にあるアルゼンチンとブラジルだが、そこに決して憎しみの感情はない。アルゼンチンのサッカーファンはロナウジーニョやネイマールといった名手たちを敬愛しているし、ブラジルの人たちもこれまで、フアン・パブロ・ソリンやカルロス・テベスといったアルゼンチン人選手たちを溺愛してきた。ダレッサンドロもその例外に漏れず、持ち前のテクニックでインテルのサポーターたちを魅了し、頭に血が上りやすい気性の荒ささえも「サッカーに対する情熱の表れ」であると受け入れられた。2010年にはインテルでコパ・リベルタドーレス優勝を果たし、キャプテンとしてチームメイトやサポーターから絶大な支持を得てきた。

 そんなダレッサンドロの人望の厚さは、彼が毎年12月に企画するチャリティ・マッチでも明らかだった。ダレッサンドロからの招待を受け、ルベン・パス、ロベルト・アジャラ、エンソ・フランチェスコリら南米諸国のOBたち、そしてフェリペ・スコラーリ、ファルカン、ドゥンガといった指導者たちが集結。インテルのサポーターたちも、偉大なキャプテンの呼びかけに応えてスタジアムを埋め尽くしたのである。

 海外のクラブでプレーしたおよそ13年間の半分以上を過ごしたクラブを離れることは、ダレッサンドロにとっても当然辛い決断だった。3日夕方、インテルにて退団会見を行ない、自ら「第二の故郷」と呼ぶクラブを去ることを報告した際、ダレッサンドロは涙を流しながらこう語った。

 「(インテルを退団することは)ちっとも楽な決断じゃなかった。この7年半の間、より優れた選手になるため、そしてより良い人間になるために自分を助けてくれた人々と一緒に過ごしてきた。インテルは全てのものを与えてくれた。ここで体験した全てのことは、最初は夢にも思っていなかったけど、本当に実現したんだ。感謝の言葉しかない。チームメイトやいつも一緒にいてくれた仲間たちとお別れをするためにロッカールームに入るなんて辛かった。このクラブの一員として過ごしたことを誇りに思っている。」

 そこまで愛し、愛されたクラブを離れる決心をした理由はもちろん、「リーベルでもう一度コパ・リベルタドーレスに出場したい」という強い願望だ。リーベルには昨年、旧友のサビオラが復帰を果たしていたが、マルセロ・ガジャルド監督の構想外となったことで退団を決意したばかり。一方のダレッサンドロの場合、ガジャルド監督自ら獲得を熱望したということから、チームの中心となってリベルタドーレス連覇実現のための重要な鍵となるだろう。

 ライバルのボカ・ジュニオルスに戻ったカルロス・テベス同様、リーベルのダレッサンドロもまた、今年のアルゼンチンサッカーを盛り上げてくれる主役となることは間違いない。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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