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【コラム】海外通信員

リオ五輪への無関心とブラジルリーグのスター誕生

[ 2015年9月6日 05:30 ]

建設が続くリオ五輪で使用予定の会場
Photo By AP

 日本では、新国立スタジアム建設問題やエンブレム問題で、ネガティブな内容ながらも毎日のように東京五輪の話題で盛り上がっているようだが、リオ五輪のシンボルにも国内のある団体が「似ている。真似したのでは」という声が上がったこともある。結局数人の人が手をつないでW杯になっているというモチーフ自体はよくあるものという結論で終わった。マスコットはポケモンからインスピレーションを得たのか?と言われたりもしたが…。いずれにしろサンパウロではシンボルもマスコットも目にすることがほとんどないので、どっちでもいい話なのだ。

 リオ五輪まで1年となったのだが、ブラジルでは、オリンピックがあまり話題になっていない。というのも、現在ブラジルでは汚職まみれの現政権に対する国民の不満が爆発中で、政府、政権党である労働党、そして大統領であるジウマ・ルセフ大統領へのデモが各地で起こっている。実際のところ、昨年10月に大統領選挙が行われ、ジウマ大統領の再選が決まり、新たな任期が始まったばかり。次の大統領選挙まであと3年待たないといけないのだが、汚職スキャンダルばかり次から次へと出てきて、国の経済の建て直しは全くできない。税金は高いくせに、教育、治安、医療へのリターンは期待できないという状態に加え、インフレが加速し、ドルに対するレアルは落ちるばかり。こぞって海外旅行に繰り出していたミドルクラスもドルの高さに悲鳴を上げ、輸入品を取り扱う企業もドル高に手を焼いている。という状況でとてもオリンピックどころではないのだ。

 開催都市のリオ以外では「来年はこの国で五輪が開催されるんだっけ?」とオリンピックのことを忘れているかのような無関心ぶりなのだが、ブラジルでは開催国先行発売として納税者番号を持つ国内居住者向けに4月から第一回のチケット抽選募集が始まり、6月に販売が終了した。

 人気があったのは、やはりバレーボール、サッカー、水泳、バスケットボール、体操など。一番人気は男子バレーの決勝戦で220倍。ブラジルでは五輪サッカーにW杯ほどの注目は通常ないのだが、今回は自国開催でしかも悲願の初金メダルを!と意気込みは強い。とはいえ、ブラジルサッカー連盟の代表部の組織変更に伴い、五輪代表監督をA代表監督が兼任することになった。というわけで、北京五輪で銅メダルチームを率いたドゥンガが今回も五輪監督を指揮する。とはいえ、五輪チームについても、今のところあまり話題になっていないが。

 さて、人気競技のチケットは抽選となったが、その他多くのマイナースポーツに関しては抽選の必要がなかった。大多数のチケットの値段は1万円以下と決して高くないが、ブラジルでは競技人口が少なかったり、知られていないスポーツへの関心は薄いためブラジル人にとってマイナーなスポーツのチケットは抽選なしにあっさり買えた。

 ロンドン五輪と比べてみればわかりやすいが、ロンドンでは英国の人口6300万人に対して1億9千枚を売り出した。今回は2億人の人口に対して450万枚のみの販売となった。

 リオ五輪組織委員会のチケット担当ドノヴァン・フェヘッチ氏は「ぎりぎりにならないと動き出さないのがブラジルの国民性だ。1年先の計画をまだ立てていない人も多いものだ」と説明した。

 各競技の会場は工期の遅れは予想通り。オリンピックパークが特に心配されている。ゴルフ会場は新設だが、芝生も植えられ、11月のテスト大会に向けて今のところ順調。ただ、会場付近は自然環境保護地区もあり、近所のカピバラ集団がゴルフ場に入っては糞のおみやげをしょっちゅう残していくそうで…。よほど芝生の具合が良いということか。

 さて、サッカー界が来年のリオ五輪で心配していることがスケジュールと会場だ。オリンピックと関係なく、国内のサッカーイベントは行われはずなのだが、2016年1月からマラカナンは使用禁止となる。もう一つのスタジアム、エウジェニョンは使用できるが、陸上競技の会場となるため(改修に約20億円かけた)使用において細心の注意が必要となる。

 最後に、5月から始まったブラジル全国リーグは真っ最中でコリンチャンス、アトレチコ・ミネイロ、グレミオ、パルメイラス、サンパウロが上位を占めている。一方欧州は現在移籍マーケット解禁の時期で、ブラジルはいつもシーズン半ばでチームの解体が迫られる時期でもある。サンパウロは財政難を回避すべく6人の選手が移籍した。さらに復活を遂げたといわれているチーム1の点取り屋であるアレシャンドレ・パットにもプレミアリーグのトッテナムとネイマールの移籍が叶わなかったマンチェスターUからの噂話しが移籍マーケット締め切りぎりぎりに取りざたされたが、結局実現されず。ブラジルのファンとしては、まだしばらくパットの活躍を目の前で見られることになった。

 そして、現在ブラジルリーグで活躍している若手選手を紹介しよう。パルメイラスのガブリエウ・ジェズスだ。パルメイラスの育成部育ちのガブリエウは昨年U-17からU-20を飛び級してトップチームに引き上げられた金の卵だ。このところ、ベテランばかりがスター選手として扱われることが多いブラジルリーグに現れた新星。ガブリエウを育てたU-17のブルーノ・ペトリ監督は、厳しくも温かい指導力で、テクニックだけでなく心も育ててきた。

 「飛び級をしたことでガブリエウは、まだ完璧な選手ではないが、大きなポテンシャルと精神力を持った逸材だ。」と太鼓判を押す。

 8月30日に行われたブラジルリーグ第21節の対ジョインヴィレ戦でガブリエウは2点を決め勝利し、チームはG4と呼ばれる上位4チーム(リベルタドーレス杯出場権圏内)に浮上した。

 「パルメイラスこそが、僕にチャンスをくれた。とても感謝している。ここパルメイラスで自分の歴史を刻みたい。そしてプたくさんのパルメイラスファンに喜んでもらえるような選手になりたい」とクラブへの愛を語り、サポーターも久々に現れたクラブのヒーロー候補に熱狂している。五輪代表への期待も高まっている。海外組が多い代表チームだが、来年リオ五輪のメンバーにブラジルでプレーするガブリエウ・ジェズスの名前があるかどうか注目だ。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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