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【コラム】海外通信員

リーベルの本気度に見たアルゼンチン人のプロフェッショナリズム

[ 2015年8月13日 05:30 ]

<G大阪・リバープレート>スルガ銀行チャンピオンシップを受け取り喜ぶリバープレートイレブン(AP)
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 「このカップ戦の出場権を得るまでの苦労を忘れてはいけない。それだけの犠牲を払い、遠方から来ておきながら、手ぶらで帰りたくはなかった」。

 スルガ銀行チャンピオンシップでガンバ大阪に3-0と快勝したリーベル・プレートのマルセロ・ガジャルド監督は、試合後、感慨深げにそう語った。

 主力選手を大幅に欠いていたガンバとは異なり、リーベルはFWを除く先発メンバー全員がレギュラーというベスト布陣で挑んで本気度を見せたが、彼らのプロ意識の高さはガジャルド監督の言葉からも感じ取ることができた。

 ご存知のとおり、スルガ銀行チャンピオンシップの出場権は、前年のコパ・スダメリカーナ覇者に与えられる。昨年6月、クラブのマネージャーを務めるエンソ・フランチェスコリから抜擢されてリーベルの監督に就任したガジャルドは、経済的な理由から大掛かりな補強ができない状態でチームを任され、17年ぶりとなる国際タイトルを見事に勝ち取った。大会の途中で母親が病死するという試練を乗り越え、最愛の古巣が長年待ち望んでいた喜びを与えた指揮官にとって、このスルガ銀行チャンピオンシップは「努力と犠牲の成果」として大きな意味を持っていたのだ。

 この試合のわずか6日前、リーベルはコパ・リベルタドーレスでも19年ぶりの優勝を果たし、南米王者に輝いていた。その夜は控え室で遅くまで祝賀会が開かれ、翌日には日本行きのフライトに飛び乗るという超過密スケジュール。途中、経由地のフランクフルトで一泊し、ホテル内のジムで身体を動かすという策が良かったのか、試合の2日前に日本に着いた選手たちのコンディションは良好だったという。

 今回の日本行きは、12月にクラブワールドカップで再び訪日するリーベルにとって、絶好の予行演習となった。一般的に、気候の変化や長旅による疲れを言い訳としないことがアルゼンチンのプロサッカー界における暗黙のルールだが、やはり地球の裏側でトップレベルの試合に挑むことになれば、コンディション調整には普段以上に慎重にならなければならない。片道30時間以上かかる空の旅を経験した人なら、経由地で一旦ホテルに入り、シャワーを浴びてベッドで眠るというだけで、気分的にもずいぶん楽になることがわかるだろう。

 リーベルは、リベルタドーレス決勝進出が決まった時、スルガ銀行チャンピオンシップを12月に延期する懇願書を南米サッカー連盟に提出した。延期が不可能と確定するや、ガジャルド監督以下コーチたちがリベルタドーレスに集中している間、他のスタッフは日本でのパフォーマンス低下を極力抑える様々な策を考え、着々と準備を始めたという。それだけ、アルゼンチンのクラブにとって「遠く離れた日本まで行ってタイトルを取ること」は大変な名誉なのである。

 今回のスルガ銀行チャンピオンシップでリーベルが見せた本気度は、アルゼンチンの指導者及び選手たち全てに通じている。南米というだけでどうしても「ラテン気質で大らかな一方いい加減」というイメージがあるかもしれないが、アルゼンチンのプロフェッショナリズムは半端なものではない。例えそれが「親善試合」でも、本気で勝ちたいと思うのがアルゼンチン人であり、その本気度がメンタリティの強さにも影響している。

 今回、真冬のアルゼンチンから真夏の日本に飛び、到着からわずか2日後にスルガ銀行チャンピオンシップを制したリーベルを見て、改めてアルゼンチン人の真のプロフェッショナリズムというものを見せつけられた感じがした。

 リーベルはこのあと、リーグ戦とクラブワールドカップでの4冠達成を狙う。ライバルのボカ・ジュニオルスは現在リーグ戦で首位に立っており、リーベルはそのすぐあとを追っている。世界王者のタイトル獲得を狙うリーベルにとって、「本気」はまだまだ続く。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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