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【コラム】海外通信員

米国代表を選んだ、アーセナルの若きMFゼラレム

[ 2015年5月22日 05:30 ]

 5月30日からニュージーランドでU-20ワールドカップが開幕される。U-20日本代表はアジア予選準々決勝で敗退したため、4大会連続で出場を逃した。このためもあってか日本では関心が薄いが、将来を嘱望される選手たちが出場するだけに世界から注がれる視線は熱い。

 そんななか、開幕前から争うこととなったのがアメリカとドイツである。イングランドのアーセナルに所属するMFゲディオン・ゼラレムの争奪戦を起こしていたのだ。

 現在18歳のゼラレムは13年にアーセナル入りを果たすと、そしてこの年の夏に行われたアジア・ツアーのメンバーに選ばれ、日本での名古屋グランパス戦などに出場、素晴らしいパフォーマンスを見せ、その才能を印象づけた。その後も順調な成長を見せており、昨年にはFAカップとチャンピオンズ・リーグにも出場するまでとなった。

 ゼラレムの両親はエチオピア出身で、生まれたのはドイツ・ベルリン。このため5歳で最初に所属したのはドイツのBFCジャーマニア1888というクラブだった。だが、05年に母親が亡くなったため、翌06年アメリカに家族で移住、15歳まで生活し、プレーしていた。その後アーセナルのアカデミー入りしたというわけだ。

 こうした背景もあって、ゼラレムはこれまでドイツのU-15、U-16、U-17代表でプレーしていた。当然ドイツ協会としてはこのままA代表まで育って欲しいと思っていた。だが、昨年、U-17に招集されたものの拒否。さらに12月にアメリカの市民権を得たことも明らかにした。

 それまでゼラレムに関してはドイツでなければエチオピア、と思われていただけにこの行動で、一挙にアメリカ代表入りが取りざたされるようになった。今年3月にはアメリカ代表のユルゲン・クリンスマン監督が「彼は特別なケースだ。私が思うに、彼はA代表でしっかりプレーできるレベルにすでに達している。アメリカ代表でゼラレムを見たい」とコメントしている。

 ただすんなりとU-20アメリカ代表入りが決まったわけではない。FIFAは、ある選手がルーツではない国の国籍を取得するには18歳になってから5年間の居住経験が必要であると定めているためだ。このことからFIFAが許可を出すかどうかが注目されたのである。

 アメリカ協会はゼラレムのアメリカ移住の理由は家族の問題でサッカーとは無関係、として前向きだったが、FIFAの審査は時間がかかった。そのためアメリカU-20代表のタブ・ラモス監督は5月7日のメンバー発表で本来21人のところ、ゼラレムの分を抜いた20人だけ発表するという事態になった。13日になってようやくFIFAがアメリカ代表入りの許可を発表し、問題がクリアされた。

 エチオピアの外務大臣が自国代表入りをアピールしたことがあるなど、3カ国が争奪戦を繰り広げたゼラレム。U-20ワールドカップで、そして今後アメリカ代表でどんな風に羽ばたいていくのか注目である。(渡辺史敏=ニューヨーク通信員)

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