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【コラム】海外通信員

宮市亮、大津祐樹、小野裕二の今

[ 2014年11月1日 05:30 ]

オランダ・エールディビジのトウェンテで活躍するMF宮市亮
Photo By 共同

 オランダとベルギーで日本人の若手選手3人が奮闘している。オランダの宮市亮、大津祐樹、ベルギーの小野裕二だ。この3人には共通点がある。昨季後半戦、ケガにより長期離脱していたという点だ。全員が今季開幕までに戦列に復帰、再スタートを切っている。3人共に、サッカーができる喜びを見せる一方で、いざピッチに立つと思うように動かない体にもどかしさを感じている様子が見受けられる。公式戦という実戦から長期間離れていた影響は想像以上に大きいようだ。

 アーセナル所属の宮市は、今季移籍市場が閉まるギリギリのタイミングでオランダのFCトゥエンテへレンタルで移籍した。

 昨季はアーセナルに在籍、そもそもトップチームでの出番が少なかったが、今年3月15日にアーセナルのU-21チームの試合中にハムストリングを負傷。以後は完全に戦列を離れていた。夏の準備期間には練習に復帰、FCトゥエンテへのレンタル移籍が決まって、新天地で完全復活へ向けてピッチに立つことになった。9月4日に移籍会見。その後ビザ等の登録が完了して晴れて全体練習に参加できるようになったわずか2日後、9月13日のホームゲーム、ゴー・アヘッド・イーグルス戦で出番が来た。後半の14分、交代出場。かつてフェイエノールトで活躍したことを知っているオランダ人のサポーターたちから大歓声で迎えられた。

 「フェイエノールトにいた時のデ・カイプ(フェイエノールトのホームスタジアム)も素晴らしいスタジアムでしたけど、(トゥエンテの)ファンもすごく熱い声援を送ってくれました。すごく良い雰囲気の中でやらせてもらえました」

 この試合で特に得点に絡むことはなかったが、チームは2-1で勝利。

 「どんどん出場機会を増やして、自分の良さを出していきたいと思います」

 当時開幕から4試合連続引き分けで白星がなかったチームの今季初勝利の瞬間にピッチに立っていたことから、宮市にとってはポジティブなスタートとなった。

 続くアウェーのヘラクレス戦では、左ウイングとしてスタメンに起用された。だが、プレーは精彩を欠いた。開始5分にスピードに乗ったドリブルからクロスを送った場面があったが、以降はほとんどのドリブルはDFに潰され、クロスはカットされた。典型的なウインガーとしてのプレーを求められている宮市は、サイドギリギリに張ったポジショニングを取る。おかげで、チームとしては狙い通りにトップ下の選手やセンターフォワードが動くスペースやギャップを作りやすくなっている。指示通りに動く宮市がいる時間帯はチームのバランスがよく、システムとしても明快に機能する。実際にトゥエンテはこの試合で前半16分に先制点を許すも、宮市が出場していた前半のうちに3得点(センターフォワードのカスタイフニョスが2得点、トップ下のツィエクが1点)を決めて逆転している。だが、宮市に求められるウインガーとしての本領、ドリブルでサイドを突破する個人技を発揮することはできなかった。後半の23分で宮市は交代。トゥエンテは1点を追加し、4-1で勝利した。

 「自分が腹立たしい」

 試合後、ミックスゾーンに現れた宮市からは普段の朗らかさが影を潜め、憤懣やる方ないといった雰囲気を漂わせていた。

 「スタメン発表された時は興奮しました。ただ、全然自分が思ったとおりの動きができなかった。練習ではできていることが、実戦になってくると全然自分が思い描いていたことができない。自分の得意とする1対1の部分だったりとか、自分の置きたいところに全然ボールが置けなかったりとか、自分が想像している体の動かし方だったりとか、全然上手くいかなかった。本当に何をやっているんだろうという感じです。久しぶりの試合で自分への期待も大きかっただけにガッカリです。3月にケガをして以来の初めての長い時間の出場だったことはポジティブだとは思いますけど、悠長なことは言っていられないんで、結果を求めてやっていかないといけないと思います」

 思えばこのヘラクレス戦が宮市にとっては底だった。以後もスタメンで3試合、途中交代で1試合と継続して起用されていく中で、試合ごとにパフォーマンスを上げてきた。ドリブルにも余裕が出てくるようになってきた。最大の問題だったコンディションも向上しており、本人が課題としていたスプリントの本数も試合を経るごとに増えている。あとは目に見える結果が欲しいところ。完全復活へ、着実な歩みを見せている。

 宮市が苦しんでいるように、いかに練習で追い込もうとも、試合の体力というものはまったく別物のようだ。長期離脱していた選手にとって、試合用の体力と試合勘を取り戻すのは一朝一夕にはいかない。VVVの大津祐樹もまた、「試合のコンディションは試合でしか戻らない」と言っている。

 大津は昨季靭帯断裂という大ケガを負い、手術とリハビリを経て、今季復帰した。準備期間中の練習試合で結果を出していた背番号10番だったが、開幕直前にハムストリングを痛めた。大事を取ってリーグ第3節からスタメン出場した。長期離脱明けで慎重にコンディションを上げていても、無理が来てハムストリングに痛みが出たりもする。リーグ戦に復帰してからも、慎重を期して60分限定、というような使われ方をしていた。第4節にはこぼれ球を蹴りこんで今季初ゴールを記録した大津だが、次が続かない。チーム自体も、第11節終了時点で11得点13失点と、退場者が出て4失点した試合があったことを考慮すればバランス優先の少し守備に重きをおいた戦い方をしていることもあって失点数はそれほど多くない。だが、上位に食い込もうと思えば得点力があまりにも物足りない状況だ。得点力へのテコ入れもあって、大津は第7節から第9節までスタメンを外れた。第10節のアウェー、スパルタ戦でスタメン復帰した大津だったが、試合は0-1で敗北。続く第11節ではまたベンチに回った。

 それでも、第9節の後半31分から出場した大津は、左ウイングとしてプレーし、豪快なドリブル突破やシュートを披露。遠慮のない大津らしい豪快なプレーが戻ってきていることを感じさせるものだった。時間は掛かったが、今季当初の慎重に一つ一つ体の動きを確かめるようなプレー、試合勘の欠如から試合の流れに乗れない時間帯が見られたプレーから脱し、本領を発揮する時が近づいてきていることを予感させるものだった。

 スタンダールの小野裕二も、着々と復活への道を歩んでいる。昨年7月に左膝の靱帯を断裂。昨シーズンを棒に振ってしまった。だが、準備期間から練習に参加。8月のチャンピオンズリーグ予備選、ゼニト戦で後半から出場し、公式戦復帰を果たした。9月24日の国内カップ戦、ヘイスト戦では右MFとしてスタメン出場。0-3で勝利した試合の3点目となるゴールを決め、チャンスを生かして存在をアピールした。

 「点を取れたことは良かったですけど、まだまだ全然」

 試合後、点を取ったことにホッとした様子も垣間見えたが、満足には程遠かったようだった。

 「プレーのスピードとか、自分のイメージしているプレーとは全然違っていました。特に前半なんかはボールも来ていたし、前向きでパスを受けることもできていたし、数的優位の状況もできていた。その中で自分の判断がすごい悪かった。60分くらいで足がつって、結構キツかったですけど、でも前半はクソみたいなプレーしかしていなかったから絶対にこんなことで交代しちゃダメだと思って。その後3人交代したから、後は足がつっても交代されることはないと思って、ガンガン行きました」

 思うようにならない体を引きずりながら走って走って試合の最後に決めた得点だった。

 以降、小野は交代出場が多いながら出場機会を得ていた。そんな中、クラブに衝撃が走ったのが、10月20日。前日のスタンダール対ズルテ・ワレヘム戦で0-2で破れ、不満を抱いたサポーターが観客席から椅子を投げ込んだ荒んだ試合の翌日、ルゾン監督が辞任した。コーチだったブコマノビッチが暫定監督に就任したチームが迎えた最初の試合は、11月23日のヨーロッパリーグのセビリア戦だった。この試合で、川島、小野の両者ともにベンチ外に。体制が変わり、小野が継続して起用されるかどうか心配された。だが、続くリーグ戦、首位アンデルレヒトとのアウェーゲームで、川島とともに小野はベンチ入り。小野は後半21分から交代出場。スタンダールは34分と44分にゴールを奪って首位チーム相手に2-0と快勝した。小野にとっては今後も厳しいポジション争いが待っているが、新体制となってからも戦力としてセレクションに入っていることが確認された試合ともなった。

 宮市も大津も小野も、思うように動かない体に時に腹立たしさを見せる。だが、長期離脱していた選手たちにとって、コンディション的にも試合勘的にもイメージどおりに体が動くようになるまでにはどうしたって時間がかかる。夏以来、3人はその事実を実感し、受け入れつつ、腐ることなく着実にパフォーマンスを向上させてきた。溜まったうっぷんを晴らすときが近づいてきている。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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