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【コラム】海外通信員

ファンハールのチームマネジメント

[ 2014年6月19日 05:30 ]

第2戦オーストラリア戦、途中交代のFWファンペルシー(右)とハイタッチするファンハール監督
Photo By AP

 ワールドカップが開幕。6月13日にオランダ代表はスペインと対戦し、5-1と大勝。今大会でも最大級のサプライズを起こしてみせた。この大金星によって、オランダの評価は急上昇。オランダの全国紙アルへメーン・ダッハブラット紙によれば、イングランドのブックメーカーでも、オランダは優勝候補として5番目に高い評価を受けるまでになった。大会前には、9つのメジャーなブックメーカーの平均が10位だった。しかし、スペイン戦に勝ったことで、イングランドやフランス、ベルギー、イタリアと同等の位置にまでアップ。逆にスペインが2位から4位へと落ちているという。イングランドがイタリアに負けたことで評価が降下。ブラジル、アルゼンチン、ドイツが優勝候補トップ3を占めている。最も評価が高いブラジルは3倍、オランダ代表は12倍だという。

 大会前には、例えばロッベンなども、「われわれは優勝候補ではない」とコメントしていた。これは選手、メディアなと、オランダの共通認識だった。決定的だったのは、今年3月6日に行われたフランスとの親善試合だった。パリのスタッド・ドゥ・フランスで、オランダは0-2と完敗。スコア以上に内容的に何もできないままの敗戦だった。特に経験の浅いバックラインのもろさが露呈。このフランス戦から、スペイン戦の5バック採用というアイディアへつながった。

 実際にオランダはスペイン戦は5バックで挑み、大勝した。このチーム作りと采配で、ファンハール監督の手腕の確かさが改めて認められた。ファンハールの手腕のうち、5-3-2といった戦術的な側面がわかりやすく評価されたわけだが、一方で人心掌握という側面でも、再評価されつつある。

 ファンハールといえば、選手やメディアと揉める人物だという印象があるかもしれない。実際、現在でもメディアと対立することは少なくない。ただ、対選手となると、それほど単純ではない。

 17日には、テレグラフ紙に、オーストラリア人のブレット・ホルマンのインタビュー記事が載っていた。ホルマンはオランダのAZでプレーした時にファンハール監督の指導を受けた選手だ。

 ホルマンは、「ファンハールは自分が出会った中でベストの監督だ」と言う。人心掌握に関して、ホルマンは「その面は彼の最も得意とする側面というわけではない。だが、AZにいた時、他のどんな監督よりも多くのことを学んだ。選手の個人能力を伸ばすという点に置いて、彼は特別だ。とてもシンプルなことだが、彼は明らかに選手を高みに導く」

 またホルマンは、選手たちは外から見るのとは違うファンハールを知っているという。「彼は選手を守る。だから、選手たちは彼のために戦う。スペイン戦の後半もそうだろう。4-1になっても攻めて、スペインを破壊した。AZで彼は時にメディアと舌戦を交わしていたが、彼はわれわれを守る壁を作ってくれていた」

 今大会でも、選手たちのモチベーションを上げるため、ファンハールはある試みをしている。今大会、スペイン戦の試合の数時間前に選手たちの妻や子供といった家族をホテルに招き入れていたのだ。「以前の試合で、それが選手の奮起につながると気が付いた。だから、今回もそうした」とファンハール。オーストラリア戦でも、同じことをするかは分からない。

 「大会で、選手たちに良いスタートを迎えて欲しいということがポイントだった。以前の試合で、選手の妻や子供、家族と顔を合わせることを許可するのが適切だと分かった。インターネット電話など動画で連絡を取り合うことは前からやっていたが、直接触れ合うことの方がインパクトは大きい。ストレスが大きい状況だけに、私は許可した」

 効果があったのかどうか。オランダはスペインに5-1で大勝した。試合翌日の練習には、選手たちの家族も練習場に集まり、外野からクールダウン中心の軽いメニューを行う選手たちを日差しの良い、牧歌的な雰囲気の中で見守っていた。練習終わりには、選手の子供たちをピッチに入れて、一緒にグラウンドでボールを追っていた。自分の子供をグラウンドに呼び寄せて一緒に戯れるファンペルシなどは、カメラマンの格好のターゲットになっていた。ファンハールは選手たちのストレスを軽減し、良い雰囲気を作るためにも、工夫を凝らしているのだ。

 注目が集まるビッグクラブや代表チームを率いる優れた監督は、メディアの対応にも長けている。各自、それぞれのやり方でメディアと向き合う。自らが矢面に立ち、メディアと舌戦を繰り広げるファンハールは、メディアに嫌われがちだ。ファンハールを嫌っている可能性が高いメディア側の人間が流す記事を、額面通りに受け取るのも芸がない。少なくともメディア上のファンハールとロッカールームのファンハールが完全にイコールだ、などとは考えない方が良いだろう。現在のオランダ代表で、人心掌握の面でもファンハールは上手くいっている。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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