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【コラム】海外通信員

開幕前夜に国民の複雑な気分

[ 2014年6月12日 05:30 ]

開幕の朝をむかえたブラジルのリオ・デ・ジャネイロ
Photo By AP

 W杯開幕まで、ついに1週間を切った。サンパウロ市内はそれほどW杯ムードが盛り上がっているとは思えない。市民レベルではショッピングモール、商店、レストラン、パン屋などにはブラジル国旗や緑と黄色の装飾がされブラジルを応援する気満々でW杯ムードを盛り上げているが、ここまではいつものW杯と同じ光景に過ぎない。本来ならば、この光景と同時に、ホスト国として各国から訪れる観光客をにぎわしく迎えるムードがあってしかるべきなのだが、そのイメージが湧いてこない。

 街を見渡しても主要道路にわずかばかりの2014W杯の飾り付けがなされているくらいで市役所はお金がないのだろうかと思えるほど地味な様相。確かに、市はそこまでお金をかけていられないのも事実かもしれない。公共のサービスが行き届かないのに、W杯の飾り付けだけ特別豪華にするわけにはいかないだろうか。

 地味ムードに加え、地下鉄のストが長引き、市役所も、州政府も対応に追われている。地下鉄のストと一言で言っても、公社の公務員たちの労働組合がスト決行中であり、民間委託の路線は通常営業をしている。

 開幕戦の舞台コリンチャンスアリーナは地下鉄のレッドラインの終点コリンチャンス・イタケーラ駅の前にある。試合当日は、スタジアム周辺は道路規制が敷かれるため、主な交通網は地下鉄で、この時期地下鉄が動かないのは致命的。当初、労働組合は給料35.7%アップを要求。びっくりするようなアップ率だが、この数字は国会議員の給料アップ率を踏襲したシンボル的なものだった。これに対して、公社が5.2%を提示。労組が納得せずストに突入したところ公社は8.7%を提示、労組は12.2%を要求してストを続けている。サンパウロ地方労働裁判所でストは違法と判決が出て、サンパウロ州知事ジェラウド・アウキミンが「今回のストは法律に反している。スト参加者たちをクビにする」と強攻策に出てきた。一刻も早く両者の歩み寄りで妥協点に達して欲しいものだ。W杯開催までにはストを終了させ、観光客をも混乱に巻き込むことになってしまうことだけは避けなければならない。

 さて、そんなサンパウロで6月6日ブラジル代表がセルビアとW杯開幕戦前の最後のテストマッチを行い、1-0の勝利を収めた。壮行試合であり、その前のパナマ戦で4点入れていただけに、1ゴールしか生まれなかったことに不満が残る試合だった。6万7000人の観客のほとんどはユニフォームや応援のファッションを身にまといお祭り気分を盛り上げたものの試合を見ての反応は二極に分かれた。開幕戦はチケットが当たらなかったので見られないが、せめて壮行試合でセレソンを見て嬉しい、楽しいと喜びいっぱいの人々もいれば、立ち上がりから動きの悪かったチームを容赦ないブーイングをお見舞いし、セルビアがいいプレーをすると「セルビア!」と皮肉まじりに讃えたり、壮行試合でも容赦のない目を向けた人々。それでも、この唯一のゴールがケガで戦線離脱が長かった主砲のフレッジの倒れながら押し込んだ泥臭いプレーの得点だったのは収穫だろう。

 セレソンを応援する気持ちは国民の共通する気持ちには違いないが、優勝して政府がW杯の成功とセレソンの優勝を自分の手柄のようにする目論みが見え隠れするところに国民は不満に思っている。以前のようなセレソンの快進撃だけが国中の関心事ということはもうない。複雑な気分が入り交じる開幕前夜である。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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