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【コラム】海外通信員

ブラジルW杯の準備ができている?

[ 2014年5月12日 05:30 ]

死亡事故がおきたブラジル中西部クイアバの競技場
Photo By AP

 W杯に向かってのんびりと事を進めてきたブラジルだが、やっとこのところW杯ムードが出てきたのだが、今週も実に情けないブラジルサッカー絡みのニュースが流れた。

 レシフェの便器直撃死亡事件やクイアバスタジアムの感電死。FIFA事務局長ジェローム・バルクが“ブラジルは危険”発言。最も恥ずかしいのが便器直撃死亡事件で、この舞台はペルナンブッ州レシフェ。日本がコートジボワールと初戦を戦う街で起きた。ただ、W杯の会場は新設したスタジアムで、事件は古くからあるサンタ・クルス私有の6万人収容のアフーダ・スタジアムだった。

 ブラジル全国リーグ2部のサンタ・クルス対パラナ戦後のことだった。レシフェにはサンタ・クルスとエスポルチ・レシフェという2つの強豪クラブがある。2チームのライバル意識はとても激しく衝突がよく起きるが、事件のあった試合は、ダービー戦というわけでなく、パラナはライバル意識が燃え上がるような相手ではないのだが、しかし、エスポルチのサポーターがアンチサンタ・クルスのためにパラナを応援に行っていた。

 ドローに腹を立てたサンタ・クルスのサポーターが、スタジアム内の女性トイレの便器を壊して外し、上階から下を歩くエスポルチサポーターに投げたという。つかまった犯人パウロ・リカルド・ゴメスは「何となく便器が投げたくなった」というのだから、いったいどうなっているんだ?!

 便器で死亡というニュースは衝撃的すぎて世界を騒がせた。恥ずかしすぎる…。一つだけ弁明すれば、W杯ではライバル同士が火花を散らす市内ダービーのような衝突は起こらないので、やみくもにブラジルのスタジアムが危ないわけではなく、ブラジルでは便器を投げる殺人が流行っているわけではないのでどうかご安心を。(安心できませんね…)

 ただ、スタジアムの問題はスタジアム内だけの問題では終わらない・・・。

 10日のことだ。世界的大ムーブメントを起こしているイギリスのボーイズグループ“ワン・ダイレクション”のライブがサンパウロ市内のモルンビースタジアムで行われた。モルンビーは、当初W杯のオープニング会場に計画があった収容人数が72000人という巨大スタジアムだ。しかし、FIFAの規定に沿った周囲の環境を整備できないということで、計画が取りやめになった経緯がある。10日のライブには約3万人が集まった。スタジアム内部は、W杯を迎えないことになったとはいえ、改修も進み、トイレもきれいなっていたし、席もちゃんとしたプラスチックの一人がけの席が設置されていた。観客は大きな混乱もなく滞りなくショーは終わったのだが、問題は試合後の交通事情および安全管理だ。

 スタジアムまでの交通は個人個人の裁量に全て任されている。サンパウロは鉄道が発達しておらず、市民の足はバスと自動車がメイン。モルンビースタジアムまで地下鉄は通っていない(これもW杯の会場に不適合だった)。試合やイベントに合わせて車でスタジアムに行く人も多いが、駐車場がない。どこに止めるかというと住宅街の道だ。そこには、フラネリーニャと呼ばれる自称路上駐車管理人が出てきて、前金での支払いを要求する。イベントが大きければ大きいほど法外な値段をふっかけ実に怪しい。しかし、警察も交通局も取り締まらない。

 そして、イベントの後は、数万人の人々が一気に外に出てスタジアム周辺は大混乱。警察と交通局は道路を閉鎖して自動車の流れはめちゃくちゃ。閉鎖をするのはいいが、迂回路のお知らせ、誘導もなく、正しい情報がどれかわからないまま振り回される。いつも同じ問題が起きるのに、なぜ、改良されないのだろう。しかも、スタジアム内、および周辺は電話はつながりにくくインターネット(3Gや4G)も使えなくなる。

 情報大臣がW杯会場でインターネットは使えないだろうとすでに危惧している。

 もちろん、W杯では、通常の試合やイベントよりもずっと厳しい対策は取られる。しかし、サンパウロのオープニングのテストイベントは5月11日に全国リーグ1部のコリンチャンス対フィゲレンセでやっと行われる調子だ。

 ちなみにブラジル代表のW杯前最後の壮行試合はモルンビースタジアムで行われる。もちろん、FIFAの管轄でないので、市民はまたしても大混乱に向かっていかなければいけない。

 W杯ではスタジアムの中だけはきっと美しくFIFAレベルになる予定だが、一歩外を出た時にどんな状況が待ち受けているだろう。ジェローム事務局長が「ブラジルはドイツじゃない。」と言ったことはまさに正しい。うまくいかないことが普通だと心して立ち向かうしかない。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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