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【コラム】海外通信員

メッシも大ファン ロサリオの古豪、復活

[ 2013年6月8日 06:00 ]

ホームスタジアムでは(左から)マルティーノ、メッシ、ビエルサの肖像画が掲げられている (C)Photogamma
Photo By 提供写真

 皆さんは、ニューウェルス・オールド・ボーイズというクラブをご存知だろうか。サッカーファンならおそらく、「メッシが幼少期に在籍していたクラブ」として、1度は耳にしたことのある名前ではないかと思う。

 ニューウェルスは、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスから北西におよそ300kmに位置する、ロサリオ市という街に本拠地を置くクラブ。チームカラーは赤と黒、愛称は「レプラ」(ハンセン病)。その昔、クラブの近くにレプラ患者が集まる病院があったこと、治療費援助のために積極的に協力したことなどからつけられたニックネームで、サポーターたちは自らを「レプローソ」(レプラに罹った者)と誇り高く呼ぶ。

 今年の11月で創立110周年を迎えるという長い歴史を持っており、その間、数多くの名選手を生み出している。過去20年間にアルゼンチン代表としてプレーしたことがあり、日本のファンの皆さんにも親しみのある選手の例を挙げるとすれば、ガブリエル・バティストゥータ、アベル・バルボ、マウリシオ・ポチェティーノ、ガブリエル・エインセ、マクシミリアーノ・ロドリゲス、エセキエル・ガライあたりだろうか。

 選手だけでなく、優れた指導者を育てることでも知られていて、その代表格がマルセロ・ビエルサだ。ビエルサは13歳でニューウェルスに入団し、20才でプロデビューも果たしたが、その後ケガに悩まされて選手活動を断念。すぐに指導者としての道を選び、当時、育成部門の責任者だったホルヘ・グリッファの元で指導のノウハウを学んだ。

 そして、指導者としてビエルサの影響を受けているのがポチェティーノであり、チリ代表監督のホルヘ・サンパオリであり、元パラグアイ代表監督で、現在ニューウェルスの監督を務めるヘラルド・マルティーノである。つまりこのクラブからは、昔も今も、アルゼンチン国内に留まらず、世界中に優れた人材を送り込んでいるというわけだ。

 そのニューウェルスが今、絶好調にある。

 リーグ戦では17節終了(残り3節)時点で首位に立ち、04年以来9年ぶりの優勝に向けて順調に勝点を加算しているだけでなく、コパ・リベルタドーレスでは準々決勝で強豪ボカ・ジュニオルスに勝ち、ベスト4に進出。7月に行なわれる準決勝ではロナウジーニョを擁するアトレチコ・ミネイロと対戦することになっており、もし優勝すれば21年ぶり3度目の快挙となる。

 94年から14年間に渡り、ずさんな運営がサッカーの結果にも影響を及ぼしていたが、08年に新しい会長が就任してからニューウェルスは再建の道を歩み出した。なかなか上昇気流に乗ることができなかったが、昨年1月からマルティーノが監督に就任。マルティーノ監督はメンバーをほとんど入れ替えることのないままチーム内の改革を行ない、そのシーズンにいきなりリーグ準優勝を成し遂げると同時にコパ・リベルタドーレス出場権も獲得。そして、エインセが仕切る守備、マクシ・ロドリゲスが走る中盤、類稀な得点力を発揮するイグナシオ・スコッコの活躍から、今年、リーグとリベルタドーレスの2冠を狙っている。

 古豪の復活に、今、ロサリオの街は熱狂の渦にまかれている。1部リーグの20チームのうち12チームが首都圏ブエノスアイレスの本拠地を置くクラブという実態の中、宿敵ロサリオ・セントラルが3年ぶりに2部から1部への昇格を決めたことも重なり、ニューウェルスのサポーターたちが「ようやくロサリーノ(ロサリオ人)たちの威力を見せるときが来た」と意気込むのは当然だろう。

 ホーム・スタジアムの名前はずばり、「マルセロ・ビエルサ」。毎試合、4万人を超える大観衆で超満員に膨れ上がるスタンドには、クラブが生んだスターたちが描かれた横断幕が掲げられる。選手時代からそのカリスマ性を発揮していたマルティーノに、メッシ、そしてビエルサの肖像画が人々の熱気で揺れる光景は圧巻だ。

 先日、ボカとの準々決勝を前にして、クラブ内では「決勝までたどり着いたらメッシをレンタルする」という突拍子もないアイデアが飛び出した。大会のルールではレンタルによる選手交代が許可されており、実際に09年にエストゥディアンテスが南米チャンピオンに輝いた大会では、ニューウェルスがエストゥディアンテスにDFロランド・スキアビを貸し出している。

 このアイデアは、メッシの父親ホルヘによって即却下されたものの、メッシがニューウェルスの大ファンであることは誰もが知っている事実。もしファイナリストになったら、サポーターとして試合に招待されることは間違いないが、メッシほどのスターがエスタディオ・ビエルサを訪れても、サポーターが作り出す熱狂の舞台の中に埋もれて、存在感を失ってしまうだろう。

 その熱さの中に、私も自分の身を置いてみたい。リーグ戦の最終節は、ボカでもリーベルでもなく、ニューウェルスを観に行くことに決めた。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

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