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【コラム】海外通信員

リーガに押し寄せる投資ファンドの潮流 プレミアが狙うファルカオの保有権も?暗躍するドイエン・グループとは…

[ 2013年4月26日 06:00 ]

保有権をどこが持っているのか?謎が多いアトレチコ・マドリードのFWファルカオ
Photo By AP

 投資ファンドが、プロスポーツを対象とするようになって久しい。サッカーでもそれは例外でなく、ブラジルやアルゼンチンを中心に、選手への投資が頻繁に行われてきた。そして空前の大不況下にあるスペインにも、その潮流が押し寄せてきている…。

 2011年10月、スポルティング・ヒホンが、ドイエン・グループなる企業とユニフォームスポンサー契約を結んだことを発表した。ユニフォームの背面に企業名を掲載するという15万ユーロの契約だったが、クラブはそれ以上の説明をせず。誰も知らないドイエンという企業に、人々は憶測を膨らませた。さらにドイエンの名は、アトレティコ・マドリード、ヘタフェのユニフォームにも記載され、爆発的に知名度を増していくことになる。そしてスポーツメディアを中心とした報道によって、契約を結ぶクラブの選手の保有権を持つ、投資ファンドであることが明らかとなった。

 2012~13シーズンに入るとドイエンのオフィシャルサイトも整理され、投資を行った選手が白日の下にさらされた。そこにはアトレティコ・マドリードのファルカオをはじめ、ヘタフェのペドロ・レオン、アブデル・バラーダ、さらには同シーズンからスポンサーとなったセビージャのアルバロ・ネグレド、ホセ・アントニオ・レジェス、マヌ・デル・モラル、ジョフレイ・コンドグビア、ババ・ディアワラ、ミロスラフ・ステファノビッチと合計22選手が名を連ねている。その目的は他クラブへの売却、また契約するクラブが保有権を完全に買い取ることでの利益の回収だ。

 22選手の内、最多となる7選手をドイエンと共同保有するセビージャのSD(スポーツディレクター)モンチは、投資ファンド介入の正当性を訴えている。「ドイエンが銀行であったなら、誰も非難はしないはず。この不況下で、銀行は我々への融資を打ち切った。だからドイエンの力を借りたんだ。投資ファンドとのコラボレーションは、イギリス、フランス、ポーランド以外では認められているからね。ドイエンとの関係は真っ当なものだ。彼らにコンドグビアという選手に興味があるかを聞き、YESならば一緒に獲得に動く。ドイエンが選手のカタログを持ってくるわけではない」

 ただ投資ファンドの存在によって、クラブの選手獲得&売却における金の流れは、さらに不透明となっている。

 モンチの話すコンドグビアに関しては、先日にレアル・マドリードが獲得に動いていると、レアル寄りのスポーツ新聞『アス』と『マルカ』が報じている。曰く、レンヌから移籍金300万ユーロでフランス人MFを獲得したセビージャだが、支払いはドイエンが全額賄ったという。セビージャは2015年以降に移籍金の半分+利子の200万ユーロを支払うことになるが、ドイエンとの契約により、600万ユーロの獲得オファーを受けることで売却を義務づけられるそうだ。なおセビージャのデル・ニド会長はこの事実を認めたものの、「オファーされた移籍金と同額をドイエンに支払えば、全保有権を手にできる」ことを強調している。

 またファルカオの保有権に関しては、さらなる闇に包まれている。これまで、アトレティコがポルトに支払った移籍金4000万ユーロのうち2000万ユーロをドイエンが賄ったとされてきたが、『マルカ』はクラブが全額を支払ったと報道。ドイエンは財政難のアトレティコに1000万ユーロを貸し付けただけで、ファルカオの保有権は100%クラブにあると主張したのだ。ただ、これに矛盾する形で、ドイエンのオフィシャルサイトにはコロンビア代表FWの名がしっかりと明記されている。ファンはファルカオをどこが保有しているかも分からず、今夏でのプレミアリーグ移籍を危惧している状況。透明性のない経営を行うクラブに対して、批判の矛先を向けている。

 さて、ドイエンの方針は、24歳以下の選手の保有権を300万ユーロ以下で買い取り、後に売却益を得ることにある。そこには、財政難のスモールクラブほど、若手選手を商品として扱うというヒエラルキーの縮図が見て取れる。それが顕著に表れるのが、昨季に2部降格したヒホンだ。昨夏にドイエンが保有権を持つホセ・アンヘルをローマに手放したアストゥリアスの名門は、ほかにもロベルト・カネージャ、アレックス・セラーノら、下部組織出身選手の保有権をドイエンに売り渡した。ファンは投資ファンドとの連携をその場凌ぎの政策と批判し、愛する生え抜きを手放す運命にあることを嘆いている。ある試合では、「ドイエン・ファック!」、「スポルティングYES!ドイエンNO!」といったメッセージが掲げられた。

 プロサッカー界におけるマネーゲームと地域ガバナンスの両立は、困難さを増し続けている。1部&2部併せて40億ユーロという債務を抱える、リーガのクラブであれば、なおさら。ドイエンをはじめとした投資ファンドの動きは、さらに活発になるだろう。なお、バレンシア、トッテナム、アーセナルからの興味が報じられるなど、バラーダが売り時となったヘタフェでは、トーレス会長が心情を告白している。「不況が長引くこの状況では、このやり方を認めなくてはならない。ただ、投資ファンドを好むことはない。サッカーの本質を損なうものだと思っているよ」。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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