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【コラム】海外通信員

ディエゴ・シメオネ監督と古豪復活を目指すアトレティコ

[ 2013年3月16日 06:00 ]

2017年6月まで契約を延長したアトレチコ・マドリードのシメオネ監督
Photo By AP

 3月5日にアルゼンチン人のディエゴ・シメオネ監督(42)が、アトレティコ・デ・マドリードと、現契約が切れる13年6月末から17年6月末まで4年間、契約の延長を行なった。シメオネ監督は、昨季の途中の11年12月中旬にグレゴリオ・マンサーノ監督が成績不振で解任された後、12月23日に就任してアトレティコの古豪復活に力を注いでいる。95~96シーズンにスペインリーグと国王杯の2冠獲得して以降、低迷状態が続き、一時は2部リーグ落ちの憂き目にもあったアトレティコで、このように長期契約をした監督はここ数十年見当たらない。それだけシメオネ監督の采配を高く評価したわけだ。

 シメオネ監督は昨季の12年1月7日のスペインリーグ第18節マラガ-アトレティコ戦(0-0)から指揮を取り始めたが、確かに彼が監督になってからのアトレティコのリアクションは目覚しい。アルゼンチン代表として歴代3位の出場試合数を誇るシメオネ監督は、疲れを知らないインディオのように激しく戦う姿から“エル・チョロ”(インディオ)の愛称で現役時代から親しまれてきた。アトレティコで2季(94~97、03~05)に渡ってプレーし、特に第1期の95~96シーズンにスペインリーグと国王杯の2冠を達成した英雄の一人であり、アトレティコファンの支持も強い。01~04年シーズンにシメオネ監督と同じアトレティコで活躍した元アルゼンチン代表GKモノ・ブルゴス助監督とアルゼンチン人コンビを組んでいるが、共にアトレティコファンの熱い気質を十分理解してチームとファンとの懸け橋となり、チームへの応援をより活発にしている。

 シメオネ監督は就任後、すぐにロッカールームに09~10シーズンにEL優勝した時のチームの優勝記念写真を飾り、選手がその写真を見るたびにモチベーションと誇りを取り戻すこと、そしてチームに常に激しさと競争力を持って戦うことを要求し、チームの攻撃面を始め、特に守備の強化を行って失点を少なくしてチームの立て直しを図った。その成果として、スペインチーム同士の決勝となった昨季のEL決勝でビルバオに3-0で快勝し、アトレティコを2度目のEL優勝に導いたばかりか、今季初めの欧州スーパー杯でCLチャンピオンのチェルシーを4-1で破ってこれまたアトレティコを2度目の欧州スーパー杯優勝に導いた。

 そして今季のスペインリーグでは、首位のバルサに次いで、アトレティコがレアル・マドリードと激しく2位争いを行っている。今季のアトレティコはスペインリーグ開幕戦でレバンテに1-1で引き分けたが、その後、12年11月3日のリーグ第10節でバレンシアに0-2で初黒星を喫するまで、公式戦13連勝(欧州スーパー杯優勝、リーグ8勝、EL3勝、スペイン国王杯1勝)するなど、好調なスタートを切り、特に今季のホームで強さを発揮している。

 一方、今季のELでは2月21日の決勝トーナメント1回戦でルビン・カザンに惜しくも敗退して2季連続EL優勝を逃したが、スペイン国王杯では決勝進出を果たして5月17日にライバルのレアル・マドリードと対戦が決まっている。

 シメオネ監督はこれまでアトレティコで公式戦通算75試合48勝13引き分け14敗の成績だが、彼が就任してからの成果は数字に表れている。3月1日にIFFHS(国際サッカー歴史統計連盟)が発表した年間クラブワールドランキング(12年3月1日~13年2月28日)で、307ポイントで首位になったチェルシーに次いで、僅か3ポイント差の304ポイントで昨年と同様の2位を守ったことにも現れている。ちなみに昨年1位のバルサは5位に下がり、レアル・マドリードは7位のままで、アトレティコがスペインリーグで最も高いランクとなっている。

 私は日本代表が98W杯フランス大会初出場が決まった後、W杯初戦で対戦することになったアルゼンチン代表の取材で、当時MFとして活躍していたシメオネ監督に話を聞いた。フィジカルが強く、激しいプレーの選手のイメージが強かったが、「僕のポジションはボランテでチームのハンドルを握るのが仕事だ」と、誠実に語り、チームを引っ張るリーダーの風格に好感を持った。このコメントでもわかるようにシメオネ監督は現役時代から監督の資質は十分に備えていたようだ。

 シメオネ監督は、毎試合ほとんど試合開始から立ったまま戦況を見つめて指揮を取り、チームに応援が必要な時に自ら両手を広げて大きく扇ぎ、アトレティコファンを鼓舞する姿はもうすっかりおなじみだ。指揮官になっても選手以上に熱く、チームと一緒に戦う姿にアトレティコファンが呼応し、”オレ!オレ!オレ!チョロ・シメオネ!”の大合唱をビセンテ・カルデロン・スタジアムに起こしている。

 もちろん、その影響力はアトレティコファンにばかりではない。シメオネ監督は、選手起用も巧みで、チーム全員を信頼し、大胆なローテーションを行って試合に臨み、選手にチームで重要な役割を果たしている自信を植え付けている。その中心選手が、“エル・ティグレ”(虎)の愛称のコロンビア代表FWのラダメル・ファルカオ・ガルシア(27)だ。2季連続でEL得点王なったこともあり、チェルシーやレアル・マドリードからオファーの噂が絶えないが、リバープレート時代から旧知のシメオネ監督を信頼してアトレティコに留まり、チームの大黒柱になっている。他にはトルコ代表のアルダ・トゥラン、アトレティコの活躍でブラジル代表に初招集されたジエゴ・コスタ、スペイン五輪代表のアドリアン等の個性的な攻撃陣を巧みに起用している。また、アトレティコの生え抜き選手のガビをキャプテンに指名し、下部チームの若手選手を育てることも忘れていない。

 おそらくシメオネ監督の契約更新を一番喜んでいるのはアトレティコの選手達だろう。なぜなら、シメオネ監督の続投でアトレティコの将来のプロジェクトが保証され、再び偉大なチームとしてタイトル争いに加わる期待が持てるからだ。

 シメオネ監督自身も、「私は選手時代にアトレティコでプレーした経験を監督になって生かしたいという願いがかないつつある。このクラブには何よりも安定が必要で、私が行うべきことはたくさんある。その一つがリーグとスペイン国王杯でレアル・マドリードに勝つことだ。そのためにもこれまで通り1試合1試合をチームとアトレティコファンと一体となって正面から戦っていきたい。」と抱負を語ったが、今後、さらなる彼の采配とアトレティコの活躍が楽しみになってきた。(小田郁子=バルセロナ通信員)

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