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【コラム】海外通信員

初ミラノダービーでゴール 23歳スケロット メディアの注目となるか?

[ 2013年2月28日 06:00 ]

<インテル1―1ミラン>同点弾を決めたインテルのFWスケロット
Photo By AP

 メディアの注目が先行する選手というものは、どこの世界にも存在する。2月24日に行われたミラノダービーでは、当然ながらミランのマリオ・バロテッリが一身にフラッシュを浴びていた。EURO2012でも活躍したイタリア代表の明日を担うストライカーのセリエA復帰に、沈滞ムードだったミラノもにわかに活気づいていた。だがこの試合、彼は沈黙。一方でゴールを決めたのは、補強の失敗呼ばわりされていたインテルの1月新加入選手だった。

 その名は、エセキエル・スケロット。アタランタから移籍した23歳のMFだ。長友佑都とはチェゼーナ時代にチームメイトだったことを覚えている人もいるだろう。走力が自慢のサイドアタッカー。10年夏のマッレス合宿では中距離走中に長友と張り合い、2人でついオーバーペースになる。その結果両者はコーチ陣に「飛ばし過ぎだ」と慌てて止められるのだが、そんなシーンが懐かしく思い出される。

 血縁にイタリア人がいたこともあり、早くからイタリア国籍を取得しU―21代表にも選出されていた若手。彼の保有権は若手の育成に定評のあるアタランタが取得しており、長友がインテルに移籍した11年の冬にはカターニアへ半年間レンタル。そして夏からはアタランタへ戻されると、主力として活躍。結局本大会に招集はされなかったものの、EURO2012の直前にイタリア代表として招集されたこともあった。さらに今シーズンも順調に活躍していたところ、右アウトサイドの人材不足に悩んでいたインテルの目に留まり、冬に移籍を果たした。23歳の若手のキャリアとしては十分すばらしいキャリアだ。

 ところが、その移籍にはネガティブな印象が付いた。ほぼ同じタイミングで、バロテッリがミラン移籍を決めてしまったのだ。メディアの注目は一気にそちらに向き、返す刀でインテルファンは「なんでウチはスケロットなんだよ、ブランカ辞めちまえ」と怒りの矛先を強化部長に向ける。プライベートでも昨年12月に、ミラノ市内の路上で元彼女と深夜にケンカをしてしまい、警察沙汰になったゴシップがあったばかり。そして、インテルでのデビュー戦となる2月3日のシエナ戦ではさらなるケチがついた。3-5-2の右アウトサイドとして起用されるが、そこを集中してやられてしまい、ハーフタイムに交代。もともと守備がそれほど得意なところではなかったところに、初体験に近い3バックのMF起用と条件は余りに不利だったのだが、これで彼は完全に『失敗』の烙印を押されてしまった。

 ただ汚名返上の機会は、なんとダービーで巡ってきた。0-1で迎えた後半24分、カンビアッソと交代で出場し、4-4-2の右へと回る。そしてその2分後に大仕事を果たした。左サイドで長友がスローインからボールを受け、マーカーをかわしてドリブルで中へと入る。それにあわせて、ファーから斜めに走りボールを呼んだ。「いい入り方をしてくれた」。これを見た長友は、右足から正確なクロスを彼の頭目がけて放つ。スケロットはこれを合わせて、ヘディングシュートはゴール右下に突き刺さった。

 得点後はしばらく顔を抑えていたスケロット。涙が出たのだという。「初めて出たダービーでいきなりゴールを決められるなんて、この感動は一生忘れられない。自分のことを色々と言われていたのは知っている。だけど僕はこのチームに貢献するためにここに来たんだ」と試合後、彼は語っていた。メディアの注目の影になった選手が、今後どれだけ周囲を見返して行くことが出来るのか、その歩みに注目したい。(神尾光臣=イタリア通信員)

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