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【コラム】海外通信員

勝負時を迎えた大津佑樹

[ 2013年2月23日 06:00 ]

正念場を迎えているVVVフェンロ・大津祐樹
Photo By 共同

 大津佑樹が勝負時を迎えている。

 大津は2月6日、ラトビア戦で、交代出場ながら日本代表デビューを飾った。ドリブル突破を見せて、観客を沸かせた場面もあった。ただVVVに戻ってきた大津は、現在スタメンから外れている。

 2月9日のヘーレンフェーン戦は降版42分、2月15日のNEC戦は降版のロスタイムから途中出場。試合終盤からの数分間のプレーに留まっている。この2試合で、VVVはヘーレンフェーン戦で2―2で引き分け、NEC戦では2?1で勝利している。チームとしては結果が出たのだ。それだけに、チームを変更する必要はない。大津のスタメン起用は、しばらく待たなくてはいけ
ないだろう。

 オランダに来た当初、4―3―3のウイングで起用されることが多かった大津だが、ここに来てトップ下、もしくはセンターフォワードのポジションで使われるようになった。

 当初、ウイングとしてプレーする大津を見て、アリエン・ロッベンなどを排出するウイング大国であるオランダにあっては、少々物足りないと感じることも多かった。エールディビジでプレーする本職のウインガーに比べると、スピードが足りない。速いのだが、ウイングとして問答無用で相手を置き去りにするほどの爆発的なスピードはない。フェイント等で相手の重心の逆を付くセンスが抜群、というわけでもない。ただ、身体能力、特に足腰のバネは素晴らしく、強引に突破できる場面があるのは確かだ。しかし、そのドリブルは安定感に欠ける。

 それでも、トップ下で起用されるようになると、その大いなる可能性を見せた。攻守両面で運動量があり、広い範囲をダイナミックに動く。低い位置ではシンプルにパスを預けて、スペースに出ていく。身体の強さから、プレスに来る相手をブロックし、ボールを守って一瞬の溜めを作ることができる。その一瞬で、周囲の選手は動き直して、より良い態勢で大津からボールをもらうことができる。ボールを預けた大津はさらにスペースへと出ていく。アタッキングサードに入れば、勝負。周囲の選手と連携しながら少しでも良い状況を作り、そこから唐突に仕掛けられる大津の突破は、やはり迫力がある。一発があるのも魅力だ。その身体能力と広範な動きは前線からのチェックでも抜群の効果を発揮する。

 つまり、中盤もしくはトップとして起用されると、攻守両面で90分間消えることなく体を張って仕事をし続けられるタイプなのだ。今さらながら、ロンドン五輪の時の大津の起用法は、合っていたということだろう。オシム的に言うならば、大津は”水を運ぶ人”側の選手として、非常に魅力的な選手なのだ。これほどの身体能力を持ち、かつ1発も期待できる選手が水を運ぶ側に回れば、チームとしては助かる。この辺がイタリア人監督であるザッケローニが好みそうな選手かもしれないと思うところでもある。サイドでも、ウイングというよりサイドハーフ的な仕事の方が活きるのではないか。

 味方選手の負傷もあって前半の35分から出場しゴールを決めた12月9日のフィテッセ戦など、昨年末にはそんな持ち味を存分に発揮していた。以後、スタメン出場が続く。ただ、フィテッセ戦に続く12月15日のフローニンヘン戦で、スタメン出場し、上々なプレーぶりながら、0―0で引き分けると、昨年末の12月23日のローダ戦では、2―4で敗れてしまう。年が明けて1月19日のNAC戦で0?1、25日のAZZ戦で1―4で黒星。チームとして結果が出なくなってしまう。

 ここでロクホフ監督はメンバーに手を入れ、大津はベンチへ。2月3日のアヤックス戦では0―3と敗れたが、続くヘーレンフェーン戦で引き分け、NEC戦で勝利という流れに繋がっていく。

 VVVは現在17位。16位までの降格入れ替え戦圏内にいる。先を見たチーム作りとか戦術的なアプローチ以上に、統計的な数字も鑑みて目先の結果を追わなくてはいけない状況だ。

 ここまでVVVは23試合を戦って4勝7分け12敗。そのわずか4勝した4試合すべてでプレーしていたMFに、マグワイア、リンセン、トゥルク、さらにボランチのラドサフリェビッチがいる。VVVは現在4―5―1。この4人をまずMFに入れる。さらにこの冬にフェイエノールトからレンタルで獲得したセンターバックもできるラムスタインをボランチに入れて、MF5人の枠が埋まる。

 残るセンターフォワードだが、4勝のうち、3試合でスタメン出場していたのがカレンだった。直近のNEC戦ではナイジェリア人FWのヌヲフォが起用されていた。このヌヲフォは、ここ4試合で3得点と好調なのだ。

 個々人のプレーの内容関係なく、チームとして結果が出た試合のメンバーを優先的に起用していくと、上記のようなことになる。結果的にFWにしろMFにしろ、大津のポジションがなくなってしまうのだ。降格を免れるために、VVVは内容を問うより結果を求めなくてはいけない状況にある。

 「やっぱり、あそこでプレーしたいなと、すごく感じました」。

 日本代表から帰ってきた直後のヘーレンフェン戦の後、代表に参加したことについて大津はそんな風に言っていた。

 「やはりレベルが高い。レベルが高いところでやりたいというモチベーションはすごくあります。一回行くことで経験になるし、また呼ばれたいという気持ちになる。ただ、やっぱり今はこっちで活躍することだけを考えています。このチームで出れなかったら、駄目だと思うので。まずはチームで活躍することだけを考えて、プレーできるようにしっかりコンディションを合わせていきたいと思います」。

 結局、結果だ。チームとしても、個人としても目に見える結果を出すしかない。他選手に出場停止でもない限り、しばらくはベンチスタートとなるだろう。大津が今の状況にフラストレーションを貯めているだろうことは想像に難くない。だが、リーグは終盤戦に向かいつつある。なんとか残留したいVVVにあっては、ひとつの勝利、ひとつのゴールが非常に大きな意味を持つ。途中出場であれ、なんであれ、一回の活躍で、一発逆転でヒーローになれる状況でもあるのだ。(堀秀年=ロッテルダム通信員)

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