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【コラム】海外通信員

ブラジル復活!? ザック・ジャパンよ、ありがとう

[ 2012年11月10日 06:00 ]

 以前、このコラムでW杯ブラジル大会アジア最終予選オマーン戦の後、日本代表とブラジル代表の対決を見てみたいと書いた。フレンドリーマッチではあるが、久々に日伯対決が実現した。

 ブラジルにとって日本は長年『格下、弱小国』の扱いに過ぎず、大量得点で勝利して当たり前というという位置づけだった。ジャポネスという日本人を現す言葉は、サッカーが下手な人の代名詞なほど、日本はサッカーはまだまだというイメージを持たれていたのだが、今回は違った。

 ブラジルは日本戦の前に中国、イラク相手のフレンドリーマッチで大量得点の圧勝をしていたが、『こんな弱小国相手に大量得点をしても、しょせんサンドバッグに過ぎない。もっと強い相手を連れて来い』と評価の対象にもならないとメディアは言い放っていた。

 そうして迎えた日本戦。日本はそれらの国とは違った扱いをされていた。近年成長著しく、さらに数日前にはフランス相手にアウェーで勝利を収めた日本に対して、スパーリングの相手ではなく、真剣勝負でぶつかるべき相手であり、中国、イラク戦のように簡単なゲーム運びはできないだろうと予想されていた。

 日本から見れば、フランス戦のように強豪ブラジルに勝つことができるかもしれないという大きな期待があっただろう。そして、ブラジルは、FIFAランキング1位から14位にまで下がってしまい落ち目のイメージで、ブラジルのサッカーは中堅国の日本相手にも通用しないところまでレベルが下がったのかという不安感が渦巻いていたかに見えたが…。ふたを開けてみれば、ブラジル余裕の圧勝だった。

 立ち上がり日本ペースで始まったように見えたが、ブラジルはゲーム序盤に相手にボールを持たせてスペースが空くのを余裕で待っていた。

 今回は、日本の布陣がブラジルと同じくゼロトップで、高い位置に前線を置いてきたということで、ブラジルにとって非常にやりやすかった。格下と言われるチームがブラジルと対戦する時、どうしても守備をがちがちに固め、ゴール前のスペースがほとんどない中、攻撃の糸口を見つけるのは苦労するものだ。しかし、日本は勇気を持って攻撃的布陣で対等に戦おうと向かってきてくれた。なんとありがたいことだったのだろう。そのおかげでブラジルは伸び伸びとブラジルらしいサッカーを取り戻すことができたのだから。

 この試合でカカが復活し、ネイマール、オスカル、フッキが期待通りのパフォーマンスを見せてくれた。4人の流動的なゼロトップが中堅国相手でも機能したことは大きな収穫だった。そして、何よりも評価が高かったのはラミーレスとパウリーニョの2人のボランチだった。マノ・メネーゼス監督の下、ブラジルに足りなかったのが攻撃力の高い、攻撃にバリエーションを加えてくれる、サプライズができるボランチの存在だったが、ついに日本戦で理想のボランチの形が見えたのだ。2人はトップの4人の流動的な動きとかみ合い攻撃参加し、緩急つけた攻撃のバリエーションをデザインした。これこそが、国民が望んだ攻撃的なセレソンだった。

 実は、マノ・メネーゼス監督になってから、合格点が与えられた試合は1試合もなかった。特に、9月にサンパウロで行われた南アフリカ戦では、監督は辛口のサンパウロ市民から大ブーイングを受けたものだ。それが、この日本戦で初めてマノ率いるセレソンに拍手が送られたのだ。翌日の新聞には、『余裕の勝利』『ポーランドのお散歩』など褒め称える言葉が並び、いつもの皮肉や批判は一言も出てこなかった。

 マノ・メネーゼス監督は快勝に満足し、「理想にかなり近づいてきた」と言い、メディアも世論も、監督のこの言葉を皮肉でなく、素直に認めた。すなわち、マノ・メネーゼスをついに2014W杯優勝に向けたセレソン監督として認めたのだ。

 相手が中国やイラクでは、いくら大量得点をしてもこれほどの盛り上がりはなかったことから考えれば、日本だったからこそ、この勝利は価値が高まったと言える。

 しかし、試合後の日本の評価は、とても低くなってしまった。新聞には『フランスに勝ったとはいえ日本は、それほど手ごわい相手ではなかった。フランス戦のパフォーマンスをブラジル戦では見せることはなかった。攻撃的システムはブラジルに完全にマークされ、中盤の選手たちは、ブラジルゴールを脅かすようなシーンを作ることができなかった。守備も、ブラジルにスペースを与え、攻撃陣を自由にさせてしまった。特にパウリーニョにしてやられた』と剣もほろろの評価が小さなスペースに書かれただけだった。

 それもそうだろう。ザック監督は、日本を攻撃的布陣にしてどういう戦いがどこまでできるのかを試しかったということは想像できるが、機能しないとわかった時点で、攻撃力の高い相手にリードされた時の戦い方にチェンジしなかったのかが不可思議だ。

 さて、この試合で先制ゴールを決め、試合を方向付けたパウリーニョだが、新聞でMVPに選ばれるほど高い評価を得て、レギュラー定着に名乗りを上げたところだ。ネイマールと同じく数少ない国内でプレーする選手だ。コリンチャンスのボランチとして南米チャンピオンズリーグのリベルタドーレス杯優勝に貢献し、年末のクラブW杯での活躍も期待されている。攻撃もできるボランチこそが、ブラジルの縁の下の力持ち。ブラジルらしさを日本が取り戻させてくれた。ザックジャパン、ありがとう。(大野美夏=サンパウロ通信員)

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