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愛情と敵意に満ちたスペインのスポーツ新聞事情

 スペインサッカーの盛り上がりとスペインのスポーツ新聞の関係は、欧州の中でも特に異質なものとして扱われる。すべてのスポーツ新聞が、特定のクラブに肩入れをする報道スタンスを取っているのだ。

 代表的なスポーツ新聞はマドリードに拠点を置くマルカだ。同紙は毎日の発行部数が約270万部と、一般紙も差し置いてスペインで最も読者を抱えている新聞である。リーガ得点王に与えられるピチチ賞、1試合当たりの平均失点が最も少ないGKに与えられるサモラ賞を創設したのも同紙で、毎年10月にはスペインサッカー界の重鎮から現在のスター選手までが一堂に会す授与式を開く。また新聞だけでなく、マルカテレビやラジオ・マルカなども保持する複合メディアで、スペインサッカー、ひいてはスポーツ全体の報道を牛耳る存在だ。

 そのマルカを約130万部で追随するのが、こちらもマドリードに拠を構えるアスである。レアル、アトレティコを中心に報道するスタンスもマルカと変わらないが、アトレティコファンの間では「アスの方がアトレティコ寄り」との意見もある(反対の意見はまず聞かない)。またレアルファンの間では、マルカよりも報道が正確と言われる。裏表紙では水着姿の女性モデルを紹介しており、紙面を開く前に裏表紙を眺めるのは、大半の読者の習慣だ。

 その後を追うのが、ムンド・デポルティボ、スポルトというバルセロナの2紙となっている。両紙の発行部数は約60万部と大差なく、一面の内容などでどちらを購入するかが判断される。また、スポルトはバルセロナの地元クラブであるエスパニョールに比較的力を入れており、ムンド・デポルティボは発行する地域で特色をつけている。ムンド・デポルティボのマドリード版であればアトレティコのムンド・アトレティコ、バスク版であればアスレチック・ビルバオのムンド・ビスカヤ、レアル・ソシエダのムンド・ギプスコアという特集ページを毎日8ページ前後組んでいる。

 以上の4紙が、現在のスペインサッカーを彩る代表的なスポーツ新聞だ。

 さて、冒頭で触れた通り、スペインのすべてのスポーツ新聞がそれぞれひいきのクラブにかたよる報道のスタンスを取っている。ここではマルカを中心に例に挙げていくが、同紙の一面はほぼ毎日がレアルであり、余程大きなニュースじゃなければ、ほかのクラブやスポーツが一面を飾ることはない。今季のサッカーの一面で言えば、バルセロナがUEFAスーパーカップを制した時、アトレティコがFWラダメル・ファルカオを獲得した時、またファルカオが初めて活躍した時の3度がレアル以外で、ほかはすべてレアルに関連したものだ。

 マルカのレアルへの力の入れようは相当なもので、同クラブの取材を担当する記者は9人を数える。ちなみに、もう一つのひいきクラブであるアトレティコは4人、その他はそれぞれ1人だ。また現地記者のほか、上層部にはクラブと深い関係を築いている人間がおり、彼らがチームのロッカールーム内の事情や、移籍市場での獲得候補などのスクープを引き出している。私が知ることができるのは練習場やスタジアムで収集できる情報のみで、マルカのスクープ記事の真偽までを知ることはできない。だがマルカの現地記者は、私に対して「表紙を飾る記事に嘘はない」と自信満々に語ってくれた。なお、スクープ記事はクラブ側との利益が一致するために得られるものとされる。例えばレアルが獲得したい選手がいるとして、それをマルカが報じれば選手側にも情報が届き、獲得の実現性を探れる。つまり選手獲得のための“外堀”を埋める作業を担っているというわけだ。

 また、こうした報道の偏重は、時にクラブの方針をも揺るがすことがある。マルカは09年1月に当時のレアルの会長であったラモン・カルデロン氏が、予算案を可決するために投票を不正操作していたことをすっぱ抜き、同氏を辞任に追いやった。また09年3月には、マヌエル・ペジェグリーニ現マラガ監督率いるチームがチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦に敗れたことを受け、「アディオス・ペジェグリーニ」という解任を求める見出しを打った。ペジェグリーニ監督はシーズン終了後に解任され、同監督の母国チリの新聞エル・メルクリオは、マルカの世論操作の結果と批判した。

 一方でスポルトとムンド・デポルティボは、マルカやアスと同様の方法で肩入れするバルセロナについて報じ、さらにはレアルへの敵意を剥き出しにもする。レアルのジョゼ・モウリーニョ監督の発言を取り上げる際には「モウ、(バルセロナ監督のジョゼップ・)グアルディオラを挑発」などを見出しにして、ネガティブな要素を振りまく。レアルGKイケル・カシージャスが渋滞で練習を遅刻し、モウリーニョ監督から罰金を科された際には、マルカがちょっとしたアクシデントと報じたのに対し、スポルトは「モウとカシージャス間で確執」とショッキングな内容で扱った。またマルカが、モウリーニョ監督が夏のバケーションを過ごす選手たちにウェイトトレーニングなどの日々の課題を命じたと報じた時には、ムンド・デポルティボがレアルMFメスト・エジルの喫煙写真を掲載し、「これがマルカの報じるモウリーニョの“労働”だ」と皮肉ったこともあった。

 マルカやアスも、バルセロナのジョアン・ラポルタ前会長とサンドロ・ロセイ現会長の衝突を明細に報じるなど、バルセロナのネガティブな部分を掘り下げたりするが、スポルトとムンド・デポルティボ程に大胆ではない。ちなみにリーガ第14節ヘタフェ対バルセロナ(1-0)でバルセロナFWリオネル・メッシのゴールがオフサイドで取り消された際に、スポルトが「マルカもゴールは正当だと報じる」と、都合が良い時にはちゃっかり同意したりもする。

 レアル&バルセロナと同様に、ライバル関係にあるマドリード&バルセロナのスポーツ新聞だが、時には意見を一つにすることもある。記憶に新しいところでは、今季のスペイン・スーパーカップでのレアル、バルセロナ(2試合合計4-5)のエル・クラシコの時がそうだ。セカンドレグ終盤に激しい乱闘騒ぎがあるなど、試合以上に両クラブの関係悪化が騒がれたこの対戦だが、マルカは「醜い争いはやめにしよう」と主張。スポルトは、スペイン代表の各年代から親交があるバルセロナMFシャビ・エルナンデスとGKイケル・カシージャスが両クラブの仲を取り持ったことを大々的に取り上げた。

 もちろん、レアル&バルセロナの対立が騒がれる一旦をスポーツ新聞が担ったことも事実だが、スペインサッカーを守り抜く確固たる信念は持っている。その信念があった上での偏重的な報道だからこそ、スペインサッカーはエンターテイメントとして成り立っているのだ。

 かくして、愛情と敵意に満ちた報道合戦は、今日も繰り広げられている。(江間慎一郎=バルセロナ通信員)

[ 2012年1月18日 06:00 ]

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