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【コラム】海外通信員

ホスト国としての大役に値しなかったアルゼンチン

[ 2011年7月21日 06:00 ]

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Photo By 提供写真

 近代的なデザインと設備を誇るラプラタ市立競技場は、今開催されているコパ・アメリカのメイン会場である。アルゼンチンが世界に誇る美しいスタジアムだが、7月19日に行われた準決勝第1試合では空席が目立った。それもそのはず、本来ならばアルゼンチンが戦っているはずの舞台に立っていたのは、ウルグアイとペルーだったからだ。

 7月1日にこの会場で開幕戦を戦ったホスト国アルゼンチンは、それから約2週間後、準々決勝で早くも敗退。18年ぶりのタイトル獲得を夢見ていた国民の期待を裏切り、ベスト4に進出できないまま姿を消してしまった。

 今大会におけるアルゼンチンの戦績は、4戦して1勝2分け1敗。準々決勝のウルグアイ戦では、1-1のドローのまま延長戦になり、それでも決着がつかずPK戦に持ち込まれたことから、1勝3分けだったという見方もできる。だが、そんな楽観的な見方をしているのはおそらくバティスタ監督だけで、メディアやファンは一斉に今回の結果に大いに失望している。

 バティスタ監督は、準々決勝でウルグアイに敗れた直後の記者会見で「目標は次のワールドカップ」であると述べた。大会直前までは「ホスト国として優勝は義務付けられている」と意気込んでいたのだが、どうやら大会期間中に位置づけを変えてしまったらしい。

 それだけではない。半年間も「戦術上の理由」からテベスを代表に招集しなかったにもかかわらず、メディアやファンからテベス支持の声が高まるとそれを無視できなくなり、結局テベスをコパのメンバーに招集。大会前のキャンプでは「テベスは私のチームに欠かせない選手」と評価していた。

 また、昨年8月に代表監督に就任して以来、機会があるごとに「バルセロナを模範にしたい」と話していたバティスタ監督だったが、開幕戦のボリビア戦でバルセロナとは程遠いゲーム運びだったことを指摘されるや否や「私は自分のチームをバルセロナのようにプレーさせるつもりはない」と言い切った。

 「結果次第で戦術を変えるのはあまり好きではない」とも話した。そして次の試合で、メンバーだけでなくフォーメーションも変えて見せた。

 大会前の「テベスは要らない」という考えから、やがて「テベスはキーマン」となり、今大会の最初の2試合で先発出場させて効果なしと判断するや、再び構想外にしてしまった。何度も「私のチームの9番(CF)はメッシ」と言いながら、2戦目のコロンビア戦後に「もしかしたら9番を起用する必要があるのかもしれない」とし、続くコスタリカ戦ではメッシを右サイドにずらしてイグアインをトップに置いた。「中盤の指揮をとるのはバネガ」と断言しながら、コスタリカ戦からはガゴがバネガに代わった。

 これでは、見ている者が不信感を募らせるのは当然である。

 今回のコパ・アメリカは、93年以来タイトルから遠ざかっているアルゼンチンにとって、栄冠を手にする絶好の機会であった。自国開催であるうえ、なんといっても絶好調のメッシを擁している。にもかかわらず、優勝を目指していたはずなのに、敗退が決まった途端、今大会が次のワールドカップへの準備期間だったと言ってのけたバティスタ監督。北京五輪で金メダルを獲得した功績から、その後の仕事ぶりを長い目で見守ってきた記者たちも、今大会を通じて見えた代表監督としての頼りなさには大いに憤慨している。

 近代的な美しいスタジアムで、決勝進出の快挙を成し遂げたのはアルゼンチンではなくウルグアイだった。眩いほどのスター選手たちを擁しながら、今回のアルゼンチンは、ホスト国としての大役を果たすに値しなかった。非常に残念なことである。(藤坂ガルシア千鶴=ブエノスアイレス通信員)

 アルゼンチン在住の藤坂ガルシア千鶴さんの最新刊「ストライカーのつくり方 アルゼンチンはなぜ得点を量産できるのか」(講談社現代新書、本体740円)が好評発売中。

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