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【コラム】海外通信員

苦しみからアルゼンチンサッカーは学べるか?

[ 2011年7月18日 06:00 ]

2部降格が決まり試合後に落胆するリーベルプレートの選手たち
Photo By AP

 リーベルプレート(リバープレート)の2部落ちは、アルゼンチンサッカー界に大きな衝撃を与えた。1901年に創立した古豪、アルゼンチンではボカジュニアーズと並ぶビッグクラブで110年間、1度も2部落ちしたことがなかった。2011年6月26日はクラブ史上忘れられない日となった。

 現会長のパサレラ氏は、78年W杯優勝チームのキャプテン、アルゼンチン最高のDF、リーベル最高のDFとして、経営難のクラブ再建のため会長選に立候補した。しかし、彼の強い気持ちを持ってしても再建出来ないほど、前会長アギラル時代のクラブ経営は腐敗していた。

 過去に数々のスーパースターを生み出し、ミジョナリオ(億万長者)と呼ばれるリーベルは再建はできるのだろうか。古巣の一大事に世界中で活躍するクラブ出身選手がチームに戻ってきた。FWカベナギ、FWアレハンドロ(チョリ)ドミンゲスらは、今季アルメイダ新監督のもとで1部昇格をめざす。

 アルゼンチン国民の約半分をどん底に追い込んだこの大惨事の直後、南米サッカー最大の祭典コパアメリカがアルゼンチンで開催されている。選手個々の能力は世界トップレベル。世界最高の選手メッシを擁するアルゼンチン代表は、もちろん優勝候補No・1だが、その代表もここ数年結果が伴っていない。
 
 コパアメリカは1993年から、W杯は1986年から優勝していない。今回のコパアメリカも「地元で優勝して当たり前」といわれる中でアルゼンチン代表は苦戦し、それどころかいまだにプレースタイルが定まらない。その原因は監督がヨーロッパでプレーする選手についていけないのか、メッシ中心のチームにするにはアルゼンチン人選手では無理なのか…。「メッシ抜きの方がチームはまとまる」という声も聞こえるほどチームに一体感がない。

 これは国民性も影響していると思う。移民の国であるアルゼンチンは、異なる文化が入り混じり、必然的に自己を主張し、個々を守る事に力を尽くす。信用できるのは自分だけなのだ。これはアルゼンチンのサッカーも同じで、昔からのプレースタイルは変わらない。マラドーナのイメージがいつまでも残り、マラドーナ2世といわれるメッシにアルゼンチン国民は86年のW杯をダブらせている。しかし、世界のサッカーは昔とは違い、狭い地域でワンタッチでパスを回すサッカーになり、マラドーナのようなドリブラ―はすぐにつぶされる。キープ力があり、ドリブルも抜群にうまいメッシはマラドーナ以上の能力の持ち主かもしれないが、今のサッカーは彼1人で勝てるほど甘くはない。

 アルゼンチンのサッカーはアルゼンチンという国の縮図にもなっている。アルゼンチンは各界に優れた人材を排出するが、優秀な人ほどアルゼンチンから国外に活躍の場を求めて出ていく。国内に残った人は、無理な自己主張を続け、個々のベクトルが合わないために組織としてのまとまりがなく、結果的に他国に後れをとっている。
 
 サッカーが文化のアルゼンチンは、国民の気持もサッカーを中心に動く。だが、さすがのジョーク好きのアルゼンチン人も、今回のリーベル2部落ちは洒落になっていないために、ボカファンも対応に苦慮している。そして今一番大事なことはアルゼンチンのサッカーを復活させるためにはどうするべきかということ。個人技重視のスタイルでパスワーク中心の近代サッカーに勝てるのか。その前にマラドーナや過去の栄光を、現実から切り離すことができるか。アルゼンチンサッカーの現状を真摯に分析し、問題点を客観的に挙げられる強い心をもった人がいるか。ダーウィンの言葉ではないが、生き残るためには変わらなければならない。それができるか――アルゼンチンは大きな岐路に立たされている。(大野賢司=ブエノスアイレス通信員)

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