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【コラム】海外通信員

財政破綻は目前…、崩れゆくリーガエスパニョーラ

[ 2011年7月9日 06:00 ]

カタール王族に買収されて、豊富な資金を元にファン・ニステルローイら大物選手を次々と獲得し2強を追いかけるマラガ
Photo By AP

 失業率が20%を超えるなど大不況にあるスペインで、リーガエスパニョーラも深刻な財政危機を迎えている。この時期のリーガ関係の報道は、普段であれば移籍市場の話題が賑わうが、スペインのスポーツ新聞で最高の発行部数を誇る『マルカ』が1面で“破綻”という見出しを打つなど、財政危機は目を背けることがないほど深刻なものになっている。リーガ所属クラブの負債総額は約40億ユーロ(約4615億円)と目を疑うような額にあり、さらに1部、2部A、2部Bを併せて300人以上の選手が、クラブの給与未払いに対する訴えを起こしている。

 この状況下で、2部Bまでの21クラブが倒産法を適用しているが、現在スペインでは、サッカークラブの倒産法適用が大きな問題として扱われている。給与未払いが続くクラブはスペインサッカー連盟(RFEF)とスペインプロリーグ機構(LFP)の条項によって降格処分となる可能性もあるが、倒産法を適用したクラブは給与支払い義務が50%免除され、なおかつ同法に守られることにより、RFEFとLFPは処分を下す権限を持てなくなる。RFEFとLFPが倒産法に対抗するためには、スペイン政府による倒産法の改正(サッカークラブが倒産法を適用した場合にスポーツ基本法が優先されるなど)が必要となるが、現在は何も処分を下せないために倒産法の“利用”を許している状況だ。現にベティス、ラージョ、グラナダの1部昇格を決めた3クラブが、すべて倒産法を適用しているという異様な状況が生み出されている。

 倒産法適用に反対する声ももちろん出始めている。グラナダに昇格プレーオフで敗れ、惜しくも1部昇格を逃したエルチェは、ホルヘ・モリーナの移籍金160万ユーロ(約1億8800万円)のうち40万ユーロ(約4700万円)しか支払っていないベティスを訴える構えを見せている。エルチェの筆頭株主であるフアン・カルロス・ラミレス氏は、「倒産法の適用によって債務を放棄したクラブが1部に上がり、誠実な経営方針を貫くクラブが割を食っている。我々がLFPであれば、ベティスが詐欺行為をしていると見なすよ」と、その憤りを露わにしている。

 また、2部降格となったデポルティボのアングスト・セサル・レンドイロ会長は、サラゴサがアンヘル・ラフィタの移籍金150万ユーロ(約1億7600万円)の支払いを免れるために倒産法を適用したとして、「サラゴサは1部残留を目的としたチーム強化のために負債を抱えたにもかかわらず、倒産法によって返済を免れようとしているんだ」と非難。デポルティボはサラゴサの降格処分をRFEFとLFPに要請し、代わりに1部でプレーすること希望している。だが前述の通り、現状ではRFEFとLFPに倒産法を適用したクラブに処分を下せる権限はなく、その望みが叶う可能性はほぼないだろう。

 一方、クラブの倒産法適用による減俸、および給与未払いが続いている状況を受けたスペインサッカー選手協会(AFE)は、給与を保証する協定を結ぶようLFPに要請したが、2010~11シーズン終了後から継続的に行われている会議は、現状まったく前進していない。AFEのルイス・ルビアレス会長は「私がブレーキの故障によって車で交通事故に遭ったら、修理するまで車には乗らない。現在のリーガは故障があるのに突き進む車だ。この状態で再びアクセルを踏んだら、皆が大きな損害を受けてしまう。我々はリーガ開幕を望んでいるが、それは選手たちの給与保証を前提としているんだ」と、ストライキ実行により2011~12シーズンの開幕を延期させる構えを見せている。

 これに対し、LFPのホセ・ルイス・アスティアサラン会長は「AFEはLFPが給与を保証することを要求している。しかし、それは実現性がないものだ。我々は雇用関係についての協定をつくる用意をしているが、全選手の給与を保証できるほどの資金はない」と苦渋の表情を浮かべている。また、「我々には、自由に使える放送権収入がない。欧州の他リーグは放送権収入によって、未払いとなっている選手の給与を保証しているが、我々にはそれがないんだ」と、バルセロナとレアル・マドリード主導で決定されるテレビ放送権料の分配方法により、欧州の他リーグのような策を講じることができないとの見解を述べている。

 このリーガの放送権料の分配方法に関しては、これまでにも多くの議論が交わされてきた。昨年10月には2014~15シーズン以降の分配方法が決定されたが、35%がバルセロナとレアル、11%がアトレティコ・マドリードとバレンシア、45%が残りの1部所属クラブ、9%が2部所属クラブ、残り1%がその他の費用に回されることになり、他リーグのような成績に応じた分配方法はまたしても採用されなかった。リーガの財政状況に詳しいバルセロナ大学の経済学者、ホセ・マリア・ガイ教授は「2009~10シーズン、レアル・マドリードは1億5800万ユーロ(約158億円)の放送権料を得たが、同じ都市のヘタフェはたった600万ユーロ(約7億円)しか受け取っていない。平等さのかけらもないリーガの放送権料の分配方法は、各クラブの財政難の一因になっている」と説明している。

 UEFAはクラブの赤字経営に歯止めをかけるために、ファイナンシャル・フェアプレーという制度を実施することを決定したが、UEFAが働きかけられるのは欧州の大会の出場資格はく奪までで、倒産法や放送権料分配方法という独自の問題を持つリーガが、現在の財政危機から抜け出すのは容易なことではない。ガイ教授は「LFP、RFEF、スポーツ上級審議会のどこも我々のリーグをコントロールできていない状況だ」とため息をもらしている。

 そして先週、この財政危機の現状を、新たに浮き彫りとするニュースが飛び込んできた。RFEFが、2部Bに所属するカステジョン、アリカンテら12クラブを、選手の給与未払いや深刻な財政難のために降格とする決定を下したのだ。この12クラブのうち、その後に給与を支払ったパレンシア、クラブ本体が倒産法適用したラージョBは残留が濃厚となっているが、残り10クラブの降格は確実と見られ、その中には解散に追い込まれたクラブも存在する。さらに、2部Bへの昇格を希望するクラブは、降格するクラブの負債を肩代わりしなければならない。昇格する権利を持つクラブの一つ、アルコベンダスのダニエル・ペニャラーバSD(スポーツディレクター)は「このような格好での昇格を好んではいないが、“ノー“と返答することはできない。しかし、我々はプレゼントをもらったわけではない。この国のサッカーは腐り切っている」と複雑な胸の内を明かしている。

 リーガの財政破綻は目に見える形で、一歩一歩、着実に迫ってきている。ガイ教授は「クラブの負債をすぐにでも減らしていかなければならない。この状況があと少し続くだけでも、リーガは支え切れるものではなくなってしまう」と警鐘をかき鳴らしている。2部Bの降格クラブの一つであるクルトゥラルの選手たちは、ある試合で「選手、そしてファンは見捨てられている」との横断幕を掲げた。バルセロナとレアルの華やかな活躍が目を引くリーガだが、その陰では、すでに大量の涙が流されている。(江間慎一郎=マドリード通信員)

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