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パリ・ボンディ竜巻警報(下)

パリSGのFWエムバペ
Photo By AP

 2017年11月26日。L1第14節モナコ・PSG(1−2)。モナコはタイトルホルダーであり、まさにエムバペがほんの数カ月前にそのピッチ上で優勝を祝った場所。だが今回はそのモナコの敵PSGの一員として古巣のピッチに戻った。モナコで育成され、モナコで大ブレイクしたたった18歳のエムバペにとって、それは初めての挑戦だった。

 かつてティエリー・アンリを前育成した指導者のフランシスコ・フィーリョは、「われわれはテクニック、タクティック、フィジカル、メンタルの4面で育成し、かなりのことを伝授できるが、“経験”だけは与えられないんだ」と語っていた。報道陣対応、本物のビッグマッチのプレッシャー管理、監督との関係、審判の不条理などだ。こればっかりは本人が徐々に学んでいくしかない“経験”なのだという。成熟度の高いエムバペはこれらも難なくこなしてきた。

 だがこの日だけは少し勝手が違っていた。スタッド・ルイIIの内側では旧チームメイトやスタッフと楽しげに再会し合ったが、ウォーミングアップでピッチに登場するや否や、スタンドから厳しい口笛の嵐が降ってきたのである。「え、モナコにもウルトラがいたんだっけ」と思わずつぶやいたが、ファンは土壇場に仇敵のもとへ移籍したエムバペを許していなかったのだ。

 それからというもの、すべてがボタンの掛け違いのようにになった。エムバペはまず2分にフリー突破、ネイマールから絶好パスをもらって撃つが、しくじってしまう。49分にも猛突破し、チップキックでループを狙ったが、スバジッチの頭上は越えたものの十分な放物線は描けず、ジェメルソンに阻止された。こんなエムバペを見るのは初めてだった。

 左にネイマールがフリーでいたのに珍しく単独で撃ち、失敗したシーンもあった。このときはネイマールが軽く「よこせばよかったのに」の仕草をしたが、ゴール内にひざまずいたエムバペは「わかってる」と苦笑した。あるところではネイマールが頭を指さし、「テクニックの問題じゃなく心理的問題だよ」と励ますシーンもあった。

 そして極めつけはモナコのFKシーン。モウチーニョが蹴ったFKは、なんとエムバペの毬栗頭に当たってゴールへ!エムバペがオウンゴールを古巣に献上してしまった瞬間だった。これでチームメイトは、試合後にエムバペの坊主頭をグリグリ撫でながらからかった。エムバペも腐らず「いやー参った」という笑顔をみせていた。

 もちろん内心は忸怩(じぐじ)たるものがあっただろう。プロになって初めて4回も絶好チャンスを逃し、オウンゴールまで献上、ブーイングを浴びながら育ての親クラブと戦うという、センチメンタルな試練だった。

 だがチームメイトのマルキーニョスは試合後、「誰にでもこういう夜があるさ」と笑った。エメリ監督も「キリアンはビッグマッチをした。最も難しいのはチャンスをつくることで、彼はそれをしたのだから」と擁護した。スペシャリストも同意見だった。彼の猛突破は今回も尋常ではなかったからだ。「レキップ」紙も「最も定期的に危険になったパリジャンだった」と書いた。

 「猿も木から落ちるというけど、エムバペでもゴールを外すんだなあ」。これが私のごく平凡な感想だった。というより「エムバペも人間だった」、とほとんど安心した。そしてこれこそがフィーリョ氏の言う“経験”なのだ。怪童はきっとここからも何かを学び取ることだろう。

 PSGはすでに全コンペティション合計で20試合を戦い71ゴール。異様なゴール数で、パリはいま「トルナード(竜巻)」と呼ばれている。国内敵なしの状態だ。

 CLでも恐るべき数字だ。グループステージ1戦を残す現時点で、5試合戦って24ゴール(全勝)である。これは昨季のドルトムント(同時期21)記録を打破し、新記録となっている。このうち15ゴールが、エムバペ&カバーニ&ネイマールの「MCN」(エムバペ3、カバーニ6、ネイマール6)だ。フランス語では「エムセン」と発音している。

 「MCNは現在世界一の攻撃トリオか」という議論も花盛りだ。「世界一だ」と断言するスペシャリストもいれば、「マンCの方が上」と指摘するアナリストもいる。「現在のパリに弱点はあるか」という議論も出ている。必死に探して「見当たらない」と頭を抱える専門家もいれば、「強いて言えば攻撃ラインが上がりすぎ、強豪相手なら裏を突かれる」というご意見番もいる。

 12月5日にはいよいよ敵地でのバイエルン戦がやってくる。バイエルンにしてみれば監督まで首にしてのリベンジ戦だ。果たしてパリの「竜巻」はどこまで大暴れするだろうか。そしてボンディっ子はどんな2年目をみせるのだろう。壁は必ず現れるはずだが、乗り越えられるか。

 エムバペの担任だった女性教師は、愛情をこめてこんな言葉を贈っている。「キリアン、カラスとキツネの物語を忘れないでね」。ラ・フォンテーヌの寓話である。(結城麻里=パリ通信員)

[ 2017年11月30日 06:00 ]

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