藤井王位、初防衛に成功 妥協なき最短77手「ホッとした」

[ 2021年8月26日 05:30 ]

将棋の第62期王位戦で初防衛を果たし、花束と色紙を手にする藤井聡太王位
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 藤井聡太王位(19)=棋聖と2冠=が豊島将之竜王(31)=叡王と2冠=の挑戦を受ける第62期王位戦7番勝負第5局は25日、徳島市の料亭「渭水苑」で2日目が指し継がれ、藤井が77手で勝利した。4勝1敗で初防衛に成功した藤井は初対戦以来6連敗した「ラスボス」を撃退。77手は今年度12局目のタイトル戦で最短決着だった。6月に開幕し、渡辺明王将(37)=名人、棋王の3冠=の挑戦を退けた棋聖戦とのダブル防衛に成功した。

 投了の瞬間まで、盤上に集中した。勝勢は自覚しても相手が相手だ。油断を排して読みに開いた穴を探した。

 「勝った将棋も結構、苦しい場面の長い将棋が多かった。自分なりに足りない部分が見つかったので、今後に生かしたい」

 昨年永瀬拓矢王座(28)から2度の持将棋、そして千日手と通算10局指して叡王を奪取した豊島。その勝負根性の持ち主を、負ければ敗退が決まる対局で77手の投了へ追い込んだ。快勝の原動力は、返し技だった。

 豊島の封じ手はその高飛車に当てる桂跳ね。藤井飛車は後退を迫られ、さらに角獲りに銀を進軍させてきた。

 そこで繰り出した端桂の返し技。この飛車獲りで、豊島の動きが止まった。長考70分。退却を優先し、進めたばかりの銀を手放す痛恨の決断へと導いた。

 豊島と初めて練習将棋で指したのは14年。棋士養成機関・奨励会初段の小学6年生で、豊島は当時七段。すでに11年、20歳で王将戦7番勝負出場を果たしていた。藤井の師匠・杉本昌隆八段(52)が依頼して実現。以来仰ぎ見る存在だからこそ「中盤の難しい局面でいい手が指せなかった」。4勝1敗と圧倒しても慢心を戒め、「ホッとした」としか語らなかった。

 王位、叡王。今夏2冠を争う両者は1日目の41手目、藤井がデビュー以来最長2時間1分の大長考。豊島も44手目に1時間53分を返し、妥協のない対局姿勢を示しあった。

 初対戦以来6連敗した豊島との対戦成績はまだ7勝9敗。それでも1月に初勝利を挙げた今年に限れば7勝3敗。6月からの棋聖戦で3タテした渡辺に続き、ゲームにおける最後のボスキャラ「ラスボス」を退け、第一人者の頂へ歩みを進めた。

 7番勝負を振り返り「(第2局の)北海道で初めて電車にも乗れた」と初めて笑った。2冠の確保を決め、今年度、あとは増やすだけ。獲得の可能性は4冠にあり、叡王戦は奪取へマジック1、竜王戦は挑戦へマジック1。第71期ALSOK杯王将戦挑戦者決定リーグも来月開幕する。夏から冬まで、主役を張り続ける。

 昼食には赤身マグロを使った鉄火丼が両者に提供された、日本将棋連盟提供。終局後、藤井が徳島入りして以降、3日間の食事で印象的だったとして挙げたのがこの鉄火丼。「対局では食べやすく、おいしくいただいた」。勝負の佳境に、最高の栄養補給になった。

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