【内田雅也の追球】「息」を合わるために 藤浪“大乱調”から守備まで乱れた阪神

[ 2021年4月24日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1―7DeNA ( 2021年4月23日    甲子園 )

<神・D(4)>5回1死一塁、馬場の悪送球に糸原(奥)、中野が跳びつくも捕球できず(撮影・北條 貴史)
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 1998年の秋だった。あるテレビで甲子園春夏連覇を達成した横浜高野球部を特集していた。監督・渡辺元智をインタビューしている後方で、投内連係が行われていた。番組内容とは関係ないが、目がいった。

 投ゴロの併殺練習で松坂大輔の二塁送球が乱れた。「まつざか~」と部長・小倉清一郎の声が飛んだ。「シャッフルだろう! シャッフル!」

 シャッフルとは走者の第2リードで使うように両足でぴょんぴょんと跳びはねる動作をいう。

 速めのゴロで投手が二塁送球する際、遊撃手(あるいは二塁手)が二塁に入るのを待たねばならない。こんな時、よくミスが起きる。手だけで細工や加減しようとすると送球が乱れる。足でリズムをとるべきなのだ。

 5回表1死一塁。馬場皐輔が投ゴロで二塁へ悪送球した。このシャッフルがなかった。いわば棒立ちで待っていた。

 また、二塁カバーが二塁手・糸原健斗か、遊撃手・中野拓夢か、瞬間迷った側面があったかもしれない。通常は1―6―3だが、打者ネフタリ・ソトで、中野は三遊間寄りに守っており、カバーは糸原、1―4―3のケースだった。

 キャンプで臨時コーチを務めた川相昌弘も投ゴロ併殺を要注意事項にあげていた。<時間がある分(中略)手先でコントロールしようとして、スローイングに乱れが生じる>と著書『ベースボール・インテリジェンス』(カンゼン)にも記している。

 併殺ならば無失点で終えていた。ここから4失点するのだから高価な失策だった。佐藤輝明の右前打後逸も重なった。

 先発・藤浪晋太郎の大の付く乱調が試合を壊したのは言うまでもない。投手の独り相撲は野手や周囲へ悪影響を及ぼす。藤浪も重々承知で、だから「情けない」とコメントを残したのだ。

 ただ、試合展開からすれば、4回裏2死から4番・大山悠輔が左翼席にソロ本塁打を放ち「これから」という時だった。藤浪7四死球2暴投で、投手も野手もリズムが狂っていたかもしれない。守備にも、打撃にも悪影響が出ていたのかもしれない。

 5回表の4失点は自責点にならない。今季は前日まで非自責点(失策がらみの失点)がわずか1点とリーグ最少だった。失策後、投手が踏ん張っていた。昨季はこの非自責点がリーグ最多の67点もあった。テーマの守備強化とは、つまり、いかに非自責点を減らせるかにあったはずだ。

 野球は連係の競技である。だから、キャンプでもよく投内連係の練習を繰り返す。リズム感良く息を合わせることで、いわゆる一丸の心も育まれていく。

 つまり、リズムは「息」と言える。山道を1日30キロ歩く、延暦寺の千日回峰行を2度も満行した大阿闍梨(だいあじゃり)、酒井雄哉(ゆうさい)が生前に語っていた言葉が印象的だ。『この世に命を授かりもうして』(幻冬舎ルネッサンス)にあった。

 「人と歩くと歩きづらいのは相手に合わせるから。合う人は呼吸のリズムも近い。『息が合ってる』という。昔の人はわかっていたんだね」

 さらに言う。「今は何でも懇切に説明する。『こうすれば上達しますよ』ってね。そんな誰にでも通用するコツはない。自分でつかむものですよ」

 臨時コーチも、守備コーチも、監督もない。自分たちの問題なのだろう。投手―野手の息が乱れた今は大切な時である。3連敗も、2位巨人と1ゲーム差も、気にする必要などない。今はただ、自分たちで互いの息を合わせ、信頼を取り戻す時である。=敬称略=(編集委員)

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