乙武洋匡氏 速い、強い、正確。意外性がパラ最大の魅力 “接点”なかった人にこそ楽しんでほしい

[ 2021年8月25日 05:30 ]

東京パラリンピック開会式 ( 2021年8月24日    国立競技場 )

東京パラリンピックの開会式をテレビで見る乙武洋匡氏(提供写真)
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 【乙武洋匡 東京パラ 七転八起(1)】東京パラリンピックが24日、開幕した。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で開かれる特別な大会だ。この歴史的イベントを「五体不満足」「四肢奮迅」などの著書で知られる作家、乙武洋匡氏(45)が五輪に続いて独自の目線で切り取る連載「東京パラ 七転八起」。第1回は「パラ競技の魅力」。

 飛べない。そう思っていたら、いつまでも飛べない。飛んでみたい。そう思う気持ちが大事なのだ――。片翼の飛行機を主人公にしたメッセージ性のある演出。13歳の少女の素晴らしい表現力。気づくと、私の頬は涙に濡れていた。

 今から8年前、ブエノスアイレスの国際オリンピック委員会(IOC)総会で東京大会の開催が決まった時、私はすぐにパソコンを開いた。私が出場することができそうなパラリンピック競技はないか必死になって検索したのだ。残念ながら四肢すべてがない私に適した競技はほとんどなく、出場選手として東京パラリンピックを楽しむことは断念した。

 だが、それからというもの、パラスポーツの現場に足を運んで試合を観戦し、アスリートや関係者にインタビューをすることで彼らの努力や工夫の一端を知ることができた。本連載では、そうした経験を糧にしながら、読者の方々がパラリンピックを最大限に楽しむお手伝いができたらと思っている。

 パラスポーツの最大の魅力は、その意外性にある。義足なのに、速い。車椅子なのに、力強い。盲目なのに、正確。初めて競技を見た人であれば、きっと彼らの障がい特性と目の前で繰り広げられているパフォーマンスのギャップに驚かされるはずだ。もちろん、それは選手たちが血の滲(にじ)むような努力を積み重ねてきた結果でもあるのだが、しかし“意外性”の原因はそれだけでなく、見る側が抱く障がい者に対するイメージの固定化といった点もあるのかもしれない。

 日頃から障がい者と接する機会がある人はそう多くない。となると彼らが障がい者に対して抱くイメージはメディアに因(よ)るところが大きくなり、結果的に「不幸」「かわいそう」といった言葉を思い浮かべてしまうことになる。だからこそ、実際にパラスポーツを目にした人々は面食らうのだ。これまで「不幸」などと思い込んでいた人々が、驚くほどのスピードで動き、激しくぶつかり合い、躍動感のあるプレーを見せてくれるからだ。

 これまでパラスポーツに親しんできた人はもちろん、あまり障がい者と接点がなかったという方にこそパラリンピックを楽しんでいただきたい。きっと彼らが見せてくれる意外性に目を見開き、快哉(かいさい)を叫ぶことになるはずだ。

 ◆乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大卒業後、スポーツライターとして活躍。杉並区立杉並第四小学校教諭、東京都教育委員を歴任。

 ≪起源は1948年、ロンドン郊外の病院≫乙武氏は2017年、パラリンピック発祥の地として知られるロンドン郊外のストーク・マンデビルを訪れた。同地では1948年7月、ロンドン五輪に合わせてストーク・マンデビル病院で車椅子を使う入院患者16人を対象としてアーチェリー大会が開催された。乙武氏は、同病院や併設されているストーク・マンデビル・スタジアムなどを巡った。

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