競泳男子・山口尚秀 母の揺れる思い ナンバーワンかオンリーワン

[ 2021年8月25日 05:30 ]

19年正月に家族で出雲大社へ(左から母・由美さん、山口、祖父・美佐雄さん、祖母・公さん、父・峰松さん、姉・智子さん)
Photo By 提供写真

 【支える人(1)】夏の祭典を迎えたパラアスリートは、東京パラリンピックまでの道のりをどのように乗り越えてきたのか。選手に寄り添い、ともに戦ってきた家族やスタッフ、組織など周囲にスポットを当てる。

 競泳男子知的障がいクラスの100メートル平泳ぎで世界記録を持つ山口尚秀(なおひで、20=四国ガス)の家には、応援歌があるという。競い合うのではなく、個性を開花させればいいと歌うSMAPの代表曲「世界に一つだけの花」だ。

 「いつも聞きながら泣いていました。“この子、どうなるんだろう?”と思った時に励まされて」と母・由美さん(52)は振り返る。

 山口は3歳で知的障がいを伴う自閉症と診断された。ショックを受けた両親を「尚くんは絶対いい子やから」と励まし続けた祖父母に毎日のように健康施設に連れられ、自然と泳ぎを覚えたという。

 小学4年時に開講した障がい児を受け入れる水泳教室に入り、高校1年で全国障がい者スポーツ大会出場。指導者に「いいものがある。真剣にやってみたら」と勧められた。徐々に力を付けて国際大会にも進出。1メートル88、92キロ、足のサイズは30センチという体格を生かして19年世界選手権を世界記録で制し、東京パラ代表にも内定した。

 飛躍的な成長。由美さんは父・峰松さん(54)、姉・智子さん(24)と交代で練習場まで車の送迎を繰り返し、家族総出で支えてきた。喜びはある。しかし、一方で順位をつけられるアスリートの宿命に複雑な思いも抱える。

 「この子にはこの子なりのペースがあるというのが子育てのモットー。なのに今は全く違うことをしている。本当はのんびり屋さんなのに、いろんなことに追い立てられて…」

 山口自身は「出場種目は全て金メダル。平泳ぎは世界記録更新」と目標を掲げる。由美さんは「本人が納得するのは金メダル。喜ぶ笑顔は見たい」と話しながら「1番になるのが凄いんじゃなくて、あの子にしかない個性や優しさを忘れないように」と葛藤。ナンバーワンとオンリーワンの間で思いは揺れる。

 山口が世界新に挑む100メートル平泳ぎは大会第6日の29日。どんな花が咲くのだろうか。

続きを表示

2021年8月25日のニュース