【復刻版 古賀稔彦の11日間】第2章 吉田“心のケガ”との闘い
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1992年バルセロナ五輪の柔道男子71キロ級・金メダリストで「平成の三四郎」と称された古賀稔彦さんが24日、亡くなったことが分かった。53歳だった。柔道ニッポンの重責を背負って世界と対峙してきた古賀さんには、忘れられない金メダルドラマがあった。バルセロナ五輪で現地入りした翌日の7月20日、78キロ級代表だった吉田秀彦との練習中に左膝に重傷を負った。日本選手団主将にも任命された金メダル候補を襲った不運。柔道私塾「講道学舎」の2年後輩にあたる吉田は責任を感じながら78キロ級で見事金メダル。そしてその翌日、古賀が運命の畳に上がった――。
首脳陣の焦りの一方で古賀の気持ちの切り替えは早かったという。
古賀「痛みがある程度引いて、練習場でわれに返った瞬間に、これでも俺は勝てると信じられる自分がガーンといた」
それだけではない。
古賀「僕がケガしたんだけど、秀彦は心のケガを負ってしまった。だから俺は金メダルを獲るから大丈夫だ。お前も頑張れと言ったんです」
吉田「気にするなといわれても、しますよ」
ここで吉田が覚えていないという言葉の記憶が、上村にはある。
上村「秀彦は、部屋を替えて欲しいと言ってきた。選手村で古賀と吉田は同部屋だった。市内に借りているコーチの部屋に移りたいと。ダメだと言った。最後まで古賀の面倒を見させろと。離れれば吉田はいろいろと考えてしまう。お前が勝ったら、翌日が試合の稔彦は絶対に頑張る、絶対に優勝しろ、とプレッシャーをかけた」
あるいは、スタッフの進言だったのかも知れない。上村は吉田が共倒れするのを恐れていた。
なぜ、古賀はケガの直後から「勝てる」と思えたのだろうか。
古賀「本当の嘘のない努力をした人って、そんなに簡単に諦められないですよね。このぐらいじゃあ、諦めきれない。余計に何とかしてやろうと。振り返れば、あのケガがあったからこそ、最大限の集中力と、最大限の力を出す努力ができた。ものすごく調子がいい時って、どうでもいいことを気にしたり、外部の声が気になったり、逆に負けたらどうしようとか、邪念が出て余計なことを考える。それが結局、ネックとなって力を出し切れない。だからあのケガがあったからこそ、自分と勝負とに素直に向き合えたんじゃないですかね。金メダルを獲るためにはケガもあり得ることなんだ、当たり前のことなんだと思ってましたね」
どこか突き抜けた精神状態になっていた。
しかし、心の整理だけでは乗り越えられない壁が、古賀の前に立ちはだかっていた。
練習どころか、歩くことすらできない。ケガをした日から試合当日まで一度も柔道着を着なかった古賀には、減量という壁が残っていた。
古賀「当時、7キロぐらい減量があった。ケガをした時であと4キロ残っていた」
試合まで11日。
古賀「私の単純な計算では、水分も合わせて1日600グラムしか胃袋に入れられない。朝昼晩に分ければ1日200グラム。コップ1杯ぐらいの量です」
毎日の目標体重を書いた表を壁に貼った。
古賀「カロリーメイトとかピットインとか、当時はやっていた栄養食品の飲むやつがあった。でも飲んじゃったら3秒で終わっちゃうから、缶ごと凍らせてシャーベットみたいにする。缶切りで開けて、チャッチャッチャって時間をかけて食べるんです」
一方の吉田も減量に苦しんでいた。
吉田「当時は12、13キロは減量していた。集中した練習をしないと体重が落ちないのは分かっていたんで、古賀先輩のケガで、もう、うまく減量できないなと思いました。体調をよくして試合を迎える、その過程が見えなくなりました」
この時点で残り3キロ。6%の体脂肪率では、最期の3キロがなかなか落ちない。古賀とともに飲まず食わずの生活をしながら、少しずつ試合への気持ちも変わってきた。
吉田「毎日、古賀先輩について治療とか、身の回りの世話をしながらずっと古賀先輩は『俺は大丈夫だから』と言い続けてたんですよ。だから、俺もやらなきゃと。ここに何をしに来たのか。自分のことは自分でしかできない。しょうがないから練習するしかないと」
そんな2人が試合前に一度、ビーチに遊びに出掛けている。
古賀「選手村のプライベートビーチにトップレスで泳ぐ方がいらっしゃるという情報が入ってきて。マウンテンバイクを借りて、2人で気分転換に行ったんですよ」
吉田「結局、ビーチには日本チームの男のドクター2人しかいなくて『医者はいろんなことを研究してるなあ』って話して帰ってきました」
吉村「秀彦が『休みください』って。練習が終わって2人の部屋に行ったらいねえんだわ。あっちこっち探して、あいつら思い詰めたんかなあって。そしたら夕方に帰ってきて『いやここはいいとこですよ。女の子、上半身裸ですよ』なんて言いやがって。ずぶとかったわ。絶対に諦めん、どんな状況であってもな」
空腹と痛みでほとんど眠れなかった古賀は持ち込んだ漫画を読み、左膝を冷やす氷を替える。吉田は古賀のマッサージをしたり、時には古賀の膝に手をかざして祈って過ごした。そうして日々が過ぎ、吉田が試合を行う7月30日を迎えた。そこまで日本は97キロ超級の小川直也が銀メダル、86キロ級の岡田弘隆が銅メダルと、古賀、吉田とともに4本柱と期待された2人が優勝を逃していた。
吉田「逆に開き直れたのはよかった。みんな負けてるからいいやと。古賀さんのためにとか、そんなことは一切思わなかったし、やるしかないという気持ちでした」
体調もよかった。
吉田「減量がうまくいったんです。負ける気はしなかった」
古賀も吉田は必ず勝つと感じていた。
古賀「選手村でYAWARAちゃん(田村=現姓谷=亮子)とテレビ見てて、秀彦優勝するからって話していました。俺も明日、優勝するだろ、そしたら、試合場で多分、ぶっ倒れるから、手だけで降りるよ、なんて話していました」
快進撃だった。1回戦から決勝まで6試合オール一本勝ちの金メダル。直後のインタビューでは「まだ明日、古賀先輩の試合があります。まだ半分です」と話した。
吉田「本当は、ああやっと終わったって感じだけです。古賀先輩に申し訳ないって気持ちでした。僕だけ金メダル獲っちゃって。しかも、ケガした相手は僕ですし。古賀先輩は絶対獲れないって思っていた。試合をできるかどうかも分からなかったですから」
ドーピング検査などを終えて、選手村に帰ったのは深夜0時過ぎ。こっそりと部屋のドアを開けると「おめでとう」という言葉が返ってきた。古賀は起きていた。というより眠れなかった。新たな不運が古賀を襲っていた。
(つづく)
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