10年前に回り始めた運命の歯車「バドミントンをしたい気持ちだけだった」桃田賢斗インタビュー(1)
東日本大震災から10年を迎える節目で、バドミントン男子シングルス世界ランキング1位の桃田賢斗(26=NTT東日本)が代表インタビューに応じた。母校である福島県の富岡高(現ふたば未来学園高)の被害は大きく、福島第一原発の警戒区域となった。同高バドミントン部は震災から2カ月後に同県の猪苗代町のサテライト校に移り、当時16歳だった少年の運命の歯車が回り始めた。
――改めて東日本大震災発生から10年が経過。率直に今の気持ちは。
「本当に長いようで短いし、短いようで長い。何度か福島県に行かせていただいたけど、震災の後、富岡高校に入った時は想像を絶するくらいぐちゃぐちゃになっていた。高校の廊下とかも、その時の思い出を思い出すけど、本当にぐちゃぐちゃでショックだった」
――富岡高校を訪れたのはいつか。
「2015年か16年に1回だけ入らせてもらった」
――実際に崩れた体育館や教室を見た時にどう思ったか。
「地震の揺れでぐちゃぐちゃになっているというのは多少分かっていたけど、想像以上というか。いろんな棚とかが倒れていて、自分が座っていた席とかも分かるけど全部ぐちゃぐちゃ。机も椅子も全部倒れて、机の中身も全部出ていた感じで、あれは相当ショックだった。あと、体育館。めちゃくちゃきつい練習をした体育館が、照明が全部落ちて、照明のガラスみたいなのが割れて…あれには言葉が出なかった。悲しかった」
――当時の寮がまだ残っているそうだが行ったことはあるか。
「寮はたぶん入っていない。入り口で見ただけ」
――今も残っていたら見に行きたいか。
「いやー、ちょっと複雑…。行きたい気持ちもあるけど、見たくない気持ちもある」
――2015年か16年に富岡に行って学校や町を見て、復興が進んでいるなと感じたところはあったか。
「仮設住宅みたいのが凄くできていた。立ち入り禁止区域も解除されたのかな?普通に生活している人がもういたので、凄いなと思った。学校がぐちゃぐちゃになるくらいの地震があって津波が来て、他にもいろんなことがあったと思うけど、何から手を付けていいのか分からないような状況にもかかわらず少しずつ復興していって。まだ全然完全ではないとは思うけど、人の力は凄いなと感じた」
――震災の影響で練習拠点が変わり、大変なことも多かったと思う。そのような経験をしたからこそ成長できた部分や学べたことは。
「僕自身そんなに“これをやったぞ”という感じはないけど、福島県の各地でサテライト校というのをつくっていただいて、またチーム富岡として再会できた時、(震災当時の)子どもの時は“あ、できるようになったんだ”と思っただけだったけど、今考えると凄いことだと感じている。ああいう経験をして、もう一回チームの人たちと集まった時はもうチームメートというより家族みたいな感覚で、凄くチームの雰囲気も良かった。そこから本当に濃いバドミントン生活ができたかなと思う」
――チームが再集合したのは11年5月だと思うが、福島県に戻る時に迷いはなかったのか。
「一切なかった。ずっと大堀(均)先生(現トナミ運輸コーチ)とは連絡を取っていて、各地で練習させていただきましたし“絶対またみんなで集まって練習できる環境を作るから待っていてくれ”と言われた。その言葉を信じていたので、他のチームに行くという迷いはなかった」
――福島県に戻ることを誰かに相談したか。
「いや、再開すると言われた時に“再開するなら大丈夫なんじゃないかな”と。そんなに深くまで考えるタイプではないので。再開するならまたみんなとバドミントンをしたいという気持ちだけだった」
――ご家族も背中を押してくれたのか。
「家族は多少、親よりもじいちゃんとばあちゃんのほうが凄く心配そうな感じはあったけど、みんな最終的には快く背中を押してくれた」
――初めて猪苗代町に集まって、チームメートと会った時の感情は覚えているか。
「いや、めちゃくちゃ感動した、なんかもう本当に。凄く久しぶりに、もう毎日いた人と2、3カ月ぶりに会うというのは、凄く久しぶりな感じだった。“生きていたんだ”とまではいかないけど、本当に凄くうれしかった」
――どこで会ったのか。
「寮(猪苗代のあるぱいんロッジ)。自分と(斎藤)太一さんはランキングサーキットに出ていて、みんなより集合が少し遅かったので、2人で後から合流したときはめちゃくちゃうれしかった」
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