よみがえる震災当日の記憶「取り残されている孤独感は今でも忘れない」桃田賢斗インタビュー(2)
東日本大震災から10年を迎える節目で、バドミントン男子シングルス世界ランキング1位の桃田賢斗(26=NTT東日本)が代表インタビューに応じた。単身でインドネシア修業中に2011年3月11日を迎えた桃田は、仲間たちや福島県の人々の安否を気遣い、電話をかけ続けた。よみがえった生々しい記憶が、自らがコートに立つ意味や第二の故郷・福島への感謝の気持ちを改めて教えてくれた。
――震災当日、桃田選手はどこにいて、どういう状況で震災を知ったのか。
「高校1年生の終わりくらいに、インドネシアに試合ではなく強化練習みたいな感じで一人で行かせていただいた。そのお昼の練習中にいきなり呼ばれた。(現地の)チーム関係者が凄い顔をして“桃田、こっちに来い”みたいな感じで言われて、テレビを見たのが最初に知った時」
――テレビにはどう映っていたのか。
「その時は仙台空港が映っていて、ほとんど流されているような感じだった。最初は何が何だか分からないような感じだったけど、少しずつ、地名とかは分かるので、地震が起きて津波が発生したんだな、という感じだった」
――すぐに福島県が大変なことになっていると理解したか。
「理解した。日本語を少し話せるインドネシアの人がいて“早くチームメートの人に電話しろ”と言われて電話したけど、回線状況が混み合いすぎて夜までつながらなかった。夜にやっとつながった。次の日に帰る予定だったけど、もしかしたらこのまま帰れないかもしれないと言われて、凄い孤独感があったのは覚えている」
――実際には帰れたのか。
「実際には次の日に帰れた。福島県には帰れなかったけど、そのまま実家に帰った」
――実家に帰ってから、連日のニュースをどういう思いで見ていたか。
「本当にチームの人たちは大丈夫かなと。原発が爆発した時は本当にやばいんじゃないかなと、ぞっとした感じだった」
――その期間をどのように過ごしたのか覚えているか。
「実家には1週間もいなかったと思う。そのまま大堀先生がトナミの関係者の方に連絡してくださって、すぐに練習に参加させていただいた。富山に行かせていただいた」
――猪苗代町に拠点が移ってからプレー面や活動面で意識の変化などは。
「やはり本当に家族みたいな感じで、チームの練習の雰囲気も凄く良く、充実した練習ができていた。また猪苗代で再開することができるようになって、よりバドミントンに対する気持ちがみんな強くなったのかなと感じていた」
――桃田選手個人のバドミントンへの思いは変化があったか。
「自分も、またやらせてもらえるとなった時に凄くうれしかった。そのうれしい気持ちのまま、ストイックに練習に取り組めていたと思う」
――この10年間で一番思い出すことは。
「今でも震災が起きた瞬間というか、ずっとインドネシアに取り残されている孤独感というのは今でも忘れない。直近で言うと、(昨年1月に交通)事故に遭って、復帰する時にふたば未来(学園中高)の方で練習させていただいたのは本当にエネルギーになった。バドミントンが本当に楽しいと再確認できた場所なので印象深い」
――桃田選手にとって、富岡と猪苗代とはどういう場所か。
「中学生から6年間ずっと福島県にいて、第二の故郷というか。僕のバドミントン人生は福島県で培われたと言っても過言ではない。本当に自分を成長させてくれた場所かなと思う」
――2016年にあのようなこと(違法賭博問題で謹慎処分)があった。17年に猪苗代に行ったと思うが、その時はどのような気持ちだったか。
「やはり申し訳ないという気持ちは当然あった。でもその時は、本多(裕樹)先生(現ふたば未来学園高監督)だったかな、本多先生からも連絡いただいて“もう一回頑張れ”みたいな言葉をいただいたので、何か自分でできることはないかなと思った時に、あの時は夏休みだったのかな、夏休みを少し利用させていただいて福島県の猪苗代町に練習に行かせていただいた。何か力になりたいと思って、スパーリングパートナーでもいいんで行こうかなと思った。結局自分が刺激をもらって帰るという形で。ああいうキラキラした後輩を見ると自分に活が入る。しっかり見本として、見本のような選手になれるように頑張らないといけないと感じさせられる」
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