ラグビー新リーグ 1部12チームは妥当か

[ 2021年2月9日 08:00 ]

トップリーグ各シーズンの得点差別の試合数分布
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 去る1月15日、現行のトップリーグ(TL)に代わって22年1月の開幕を目指す新リーグの大会フォーマットが発表された。すでに3部制となることが発表されていたが、注目は各ディビジョンのチーム数、中でも1部が何チームで構成されるか、だった。

 日本ラグビー協会は昨年7月の段階で、最上位に当たる1部のチーム数を「10±2」にすると公にしていた。新リーグは単にTLの看板替えではなく、運営や事業面でプロスポーツに近づける。それと同時により拮抗(きっこう)した試合を増やし、試合レベルを高め、日本ラグビー界の底上げを目指すことも大義の一つだ。現行のTLは03年に12チームで始まり、06年に14チーム、13年に16チーム体制となった。現状は大差が付く試合も散見され、強化の面では必ずしも適正数ではなかった。では、何チームが適正なのか。注目の答えは「12」だった。

 新リーグには25チームが参加申請をしている。25を単純に3分割すれば「8、8、9」となる。個人的にはこれまで取材してきた肌感覚で、「10」が適正だと思っていた。では、どうして「12」になったのか。オンライン会見に臨んだ日本協会の谷口真由美・新リーグ法人準備室室長の説明はこうだ。

 「過去のもの(トップリーグ)を拝見すると、(上位)8チームと10チームでは30点差以上の大差の試合は1試合ずつくらいしかない。12チームでは2試合が該当する。14チームだと3、4試合増える。1、2試合であれば許容範囲という判断で、12チームという計算をした」

 なるほど、と思う反面、もっと具体的で詳細な数字を出してくれれば、12チームとした理由を納得できたはずだ。そこで論より証拠と思い、過去のTLの成績を元に、1部は何チームが適正なのかを分析した。

 準備室が分析対象とした対象としたシーズンや方法は不明だが、当欄では以下の手順に沿って分析を試みた。

 ・対象シーズンはTLが16チームになった13~14年シーズン以降の6シーズン。新型コロナで打ち切りとなり、不成立だった昨シーズンは除外した

 ・分析対象としたのは各シーズンのリーグ戦で、プレーオフなどのトーナメントは除外した

 ・順位はプレーオフなどトーナメントを経て確定した最終順位を元にした(プレーオフがなかったシーズンを除く)

 ・以上の項目に従い、各上位から8、10、12と16チームの場合の総試合数における、30点差以上の試合の割合を割り出す。

 結論から言えば、分析結果だけを元に「1部は10チームであるべき」とも、「12チームであるべき」とも断言はできない。6シーズン通算の結果を見れば分かるように、平均すればチーム数が増えるほど、30点差以上の試合も増えるという比例関係は分かった。その先は、大差の試合が何試合までなら許せるか?という個々の主観に委ねられる領域だ。

 一方で見方を変えると、別の答えが導き出せることも付記したい。TLは毎年のようにフォーマットが変更されており、16チームが唯一、1回戦総当たりを実施したのは、16~17年シーズンのみだ。このシーズンに注目すると、30点差以上の試合の割合が8チームでは7・1%、10チームでは11・1%だったのに対し、12チームでは19・7%に跳ね上がる。およそ5試合に1試合が30点差以上のワンサイドゲームになることが、果たして強化の面に寄与するのだろうか。

 日本協会がフォーマット決定に至る検討ポイントとして挙げたのが、(1)高質で均衡した試合の醸成(2)ホスト&ビジター形式の実施(3)フォーマットの分かりやすさ(4)フォーマットの一定期間固定化と段階的発展、の4項目だった。(1)のみを考慮すれば、やはり8ないしは10チームが適正数だろう。一方で新リーグが(1)のみを目的としているわけではないことも、理解している。

 谷口氏が「ホスト&ビジターというのが新リーグの一丁目一番地の施策」と熱弁したように、事業性を高め、リーグ全体の魅力が高まれば、ファンや競技者人口も増え、試合レベルの向上も見込まれる。現行TLのチーム数を削減した方が、強化面では即効性があるだろう。新リーグはその面では遠回りかも知れないが、大きなポテンシャルを秘めている。その意味で12チームを決めたからには、しっかりと軌道に乗り、その成功を願うばかり。日本協会や4月に立ち上がるという新リーグ運営法人に期待したい。

 一点、注文を付けたい部分もある。ディビジョン決定に至る審査過程や内容は、是非とも公にしてもらいたい。日本協会は「各チームとの守秘義務に基づき、審査の結果内容を一般公開する予定はない」と説明する。公正公平な審査に支障を来すのであれば、部分ごとに非公表とすればいいが、一切の非公表は、果たして新リーグの理念にかなうものなのだろうか。

 1月15日のフォーマット発表前、各チームには審査の中間結果が伝えられている。取材によれば各審査項目を元に点数化され、1~25位まで、順位が示されている。また今回の中間結果は全体評価の8割を占め、残りは今季のTL成績と、事業運営力が1割ずつ考慮されるという。場合によってはTL最終シーズンを制したチームが、新リーグでは2部や3部に振り分けられる可能性もあり得る。成績だけが審査対象ではないとはいえ、あまりに成績と乖離(かいり)したディビジョン分けになり、そして審査内容が全く説明されなかったら、果たしてファンは納得できるのか。

 事業性すなわち、営利を得るためには、ファンの心をつかむことが重要であるはず。その第一歩で、つまずくわけにはいかないはずだ。誰もが納得して22年1月の新リーグ開幕を迎えるためにも、再考を検討してもらいたい。(記者コラム・阿部 令)

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