“出雲基準”は試金石となるか 箱根駅伝開催ネックは沿道の観客
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、「学生三大駅伝」の初戦にあたる第32回出雲全日本大学選抜駅伝の中止が27日に発表された。大会を主催する出雲市の説明によると、中止の決定打となったのは日本陸連の競技再開のガイダンスだった。
長岡秀人出雲市長は定例記者会見で「選手、スタッフ、地元ボランティアの安全確保が困難であると判断した」と中止を判断するに至った理由を説明。続けて「日本陸連のガイダンスの中にある、65歳以上のスタッフは起用しないようにという話が特に気になった」と明かした。
日本陸連が発表したロードレース再開のガイダンスには「参加ランナー・チーム関係者、競技役員、大会役員、ボランティアなどが65歳以上の方、基礎疾患を有する方の場合、重症化リスクが高い旨を認識した上で参加いただく」とある。出雲市によると、交通整理員などを含めて大会には約2000人のボランティアが参加する。そのほとんどが65歳以上だという。地方は高齢者が多く、駅伝大会のように若者が全国から出雲に集まることを危惧したという声もあった。出雲市側もセレモニーを控えるなど、大会規模を縮小しての開催を最後まで検討したというが長岡市長は「一番のネックは65歳以上のみなさんのお手伝いがないと、この大会は厳しい。来年以降も開催するために中止という措置をとった」と苦しい胸の内を明かした。続けて長岡市長はこうも言った。「年齢は大きな要素。(日本陸連の)ガイダンスは実現が厳しいものが多かった。全てクリアできるのは難しい」
駅伝シーズンが本格化する前に出雲市が打ち出した形となったロードレース開催についての“出雲基準”が、駅伝・マラソン開催への試金石になる可能性はある。今回の判断が11月の全日本大学駅伝、そして来年正月の箱根駅伝にも影響するのは必至だろう。全日本、箱根の2大会は出雲駅伝より参加校も多く、距離も長くなるだけに密の機会も増える。
ただし、主催者側は“出雲基準”に右に倣えというわけではなさそうだ。駅伝関係者はボランティアの人員確保を含めて「(全日本は)自治体と準備中で現時点で支障はない」と強気だ。特に注目度の高い箱根駅伝についても「補助員やボランティアは大学生が多いから問題ないと思う」と高齢者の参加が判断材料となった“出雲基準”はクリアするとみている。全国各地から大学生が集まる、出雲や全日本と比べ、関東学連加盟校が集まる“関東大会”の箱根駅伝なら県をまたいだ移動も最小限にとどまる。現時点で陸上関係でクラスターが発生していないということも、各大学の感染予防が奏功していることの証左で、開催準備を後押しするのではないか。
箱根駅伝が出雲駅伝と違うのは沿道の観客の規模だ。2日間で100万人ともいわれる箱根駅伝の密集度は“緊急事態宣言”レベル。日本陸連のガイダンスでは沿道の応援にも言及している。(1)地元住民含め沿道での応援の自粛要請。(2)応援自粛、ソーシャルディスタンス確保、ポスター掲示・スタッフによる滞留禁止の呼び掛け(3)沿道から声援を送らない、とある。
箱根ファンは夜も明けきらないうちから氷点下の箱根・芦ノ湖でスタンバイする。東京・大手町でもスタート、ゴール時には肩がぶつかり合い、一歩歩くことも苦労するほどの密集密接状態が続く。応援自粛要請くらいしか沿道対策はないが、3月の東京マラソンなどをみても、観客を完全にゼロにするのは不可能。その点をどう判断するのかが開催を巡る“箱根基準”になりそうだ。
ロードレースはコロナ禍のため国内外のスケジュールはずたずたにされた。メジャーマラソンは相次いで中止を表明。国内も主要なハーフマラソンが中止となっている。新型コロナウイルスの感染状況によっては、観客をゼロにできないロードレースには今季中止という最悪の状況が待っているかもしれない。それでも選手、関係者はレース当日に照準を合わせて、日々の練習に取り組んでいる。無事にロードレースが開催された暁には、TVドラマが人気を博している「半沢直樹」よろしく、選手たちには好記録で“倍返し”してほしい。(記者コラム・河西 崇)
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