突進するリーチの強度を上げた唸り 日本に生まれたラグビー応援文化

[ 2019年10月16日 14:05 ]

スコットランド戦で突進するリーチ・マイケル(撮影・吉田 剛)
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 聞き覚えがあったような、なかったような。

 ナイトゲームはどうしても、原稿の締め切り時間との勝負になる。試合を見ながら、パソコン画面にも目を落とす。気になったプレーがあったら、スマホに映すオンデマンド放送で確認。そしてノートに手書きで記録も付ける。時々、会社と電話。だからそれ以外のことに、なかなか気が行かない。

 13日の日本―スコットランド戦。リーチがボールを持つたびに、6万人超を集めたスタンドが「リーチ!」と唸りを上げた。得も言われぬ迫力と一体感。おそらく本人の突進強度は数パーセント増しただろう。スコットランド側のディフェンダーはおののき、出足が数パーセント鈍ったかも知れない。

 記憶の限りでは、あれほどの一体感を持って日本代表の選手がコールされたことは、これまでになかった。何より歓迎すべきことは、スタンドのファンが示し合って生まれたものではなく、一部で発生したものが、自然にスタジアム全体に広がったということ。ワールドカップという大舞台を通じて、日本にも一つのラグビー文化が生まれたことがうれしい。

 日本で2大スポーツと言えば野球とサッカー。両者に共通するのは、それぞれにファンやサポーターの応援文化、そして形式があるということ。私も昔は球場に足繁く通ったが、声を枯らし、メガホンを振る楽しさには、ある種の中毒性がある。野球を見てないじゃないか、サッカーを見てないじゃないか。得てしてそうした批判はあるが、また球場に行きたい、と思わせる大きな要因になっていたのは間違いない。

 日本の高校ラグビーなど一部を除けば、ラグビーには伝統的に、野球やサッカーのような応援文化はない。そしてそれらを追従しまいとする空気感があるのも確かだ。ルールが難しいという先入観もあってか、ラグビーそのものに興味がない人をスタジアムから遠ざけていた一因になっていたと感じる。新しい文化の醸成は、そうした壁を一気に取っ払う力になるだろうと思っている。

 イングランドの「スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット」の大合唱や、南アフリカの「ビーストコール」(コール、よりもチャントの方が適切か)など、ある日突発的に始まり、根付いた応援文化はティア1のような強豪国にも存在する。南アのヨハン・エラスムス監督も14日に会見で「とても良いことだと感じた」と笑顔で話した。ラグビーそのものや観戦文化が広がるのは、世界の関係者にとって、共通の願いだろう。

 今の日本代表で歌われているチームソング「ビクトリーロード」を、ファンもスタジアムで歌おうという動きがある。「ニッポン、チャチャチャ」に飽き足りない愛知県在住の逢見競(つよし)さんが熱望し、SNSを通じて発信。替え歌の作詞に関わった山本幸輝(ヤマハ発動機)や代表OBの広瀬俊朗氏も拡散に協力し、5日のサモア戦、13日のスコットランド戦と、歌声は少しずつ広がっている。スタジアム全体を覆い尽くすような歌声になるまでには、時間が掛かるかも知れない。しかし、千里の道も一歩から。このW杯をきっかけに、確実に日本のラグビーシーンは変わろうとしている。粉骨砕身してきた選手の願いが、ようやくかなおうとしている。(阿部 令)

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