王子谷VS原沢 20年五輪へ楽しみなカメとカメの競い合い

[ 2017年5月15日 15:11 ]

王子谷剛志(左)と原沢久喜
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 寓話では、のろまなカメが対峙(たいじ)し、勝利するのは、天分に恵まれたウサギだ。さて、カメとカメが競い合ったら、どうなるのか?そんな楽しみが今、柔道界に生まれている。

 体重無差別で柔道日本一を決める全日本選手権は、王子谷剛志(旭化成)の2年連続3度目の優勝で幕を閉じた。1メートル86、145キロの雄大な身体に、ついたニックネームは「超人ハルク」。大木を根こそぎ引き抜くような大外刈りの破壊力は、規格外だ。王子谷を指導する東海大の上水研一朗監督は「ナタの切れ味こそ、王子谷の魅力」と説明する。

 この王子谷、幼少期から超一流だったかというと、そうではない。小学生時代は全国大会出場の機会なし。名門・東海大相模中に進学した中学時代も、全国優勝は経験していない。東海大相模高3年時には個人で全日本ジュニアを制し、世界ジュニアも優勝しているが、高校生が最も欲しいタイトルであるはずの団体戦では、ことごとく国士舘高の前に屈している。

 ここに来て安定感が出てきた理由を、上水監督は「自分と向き合い、苦手を塗りつぶしてきたから」と表現した。右の大外刈りを攻撃の軸としてきた王子谷は、相手右脚との距離ができるけんか四つが苦手だった。だが、練習でけんか四つとの対戦を重ね、大外刈り以外の技や組み手に進境を見せる。同監督は「器用じゃないから時間はかかるが、じっくり時間をかける分、高みに到達できるのでは」と見ている。

 その24歳と20年東京五輪の代表争いを繰り広げると関係者が見ているのは、同学年で、昨年のリオ五輪銀メダリストの原沢久喜(日本中央競馬会)。こちらも中学、高校時代は目立った成績はなく、日大進学後に頭角を現してきた遅咲き派だ。その原沢、今年の全日本選手権で絞め落とされる屈辱の一本負け。金野監督は「あれだけ柔道に真剣に取り組んできた男でも、五輪という大きな目標が終わったあとの“落とし穴”にはまったのか」と驚く一方で「これで本人もすっきりして出直せるのでは」と巻き返しに期待する。

 リオ五輪前から同監督が「完成するのは東京五輪の頃」と言い続けてきた理由は、小細工なしのスケールの大きな柔道内容と、練習に必死に取り組む姿勢にある。敗戦という屈辱を味わうたびに成長してきた1メートル91、122キロの身体は、まだまだ伸びしろ十分と言える。

 この2人、今年の世界選手権(8月28日開幕、ブダペスト)の最重量級代表にそろって選出された。五輪連覇のテディ・リネール(フランス)が出場すれば、どちらか、もしくは両者が対戦する可能性は高い。18歳5カ月で世界王者となって以降、史上最多8度の優勝を飾っている2メートル4、129キロの絶対王者は、いわばウサギ。キャリアのエンディングが近いとされるリネールに、どちらのカメが一太刀浴びせるか。楽しみの先に、20年五輪が見えてくる。(記者コラム・首藤 昌史)

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