アウェーのW杯アジア最終予選、DAZN独占配信の舞台裏

[ 2021年10月7日 09:00 ]

 日本代表のアウェーのW杯アジア最終予選が、スポーツ動画配信サービスDAZNで独占配信されている。7日(日本時間8日2時キックオフ)の第3戦サウジアラビア戦も、DAZNのみで中継される。

 DAZNが日本で一躍有名となったのは17年、Jリーグと10年間で2100億円の放映権契約を結んだ時だった。巨額の契約はJリーグの歴史を変え、黒船と呼ぶ人もいた。

 そのDAZNがなぜ、代表戦を配信するに至ったのか。

 ことの発端は翌年の18年だった。アジアサッカー連盟(AFC)は、AFC主催の放映権取り扱い代理店を、それまでのラガデールから中国系のDDMC Fortis(後にこの権利を専門に扱う子会社FMA)に移した。FMAは中東・北アフリカを除く全世界での21~28年の放映権を約22億ドル(2450億円)で獲得。AFC側がこの契約で手にした金額は、以前の4~5倍まで膨らんだ。

 日本国内での放映権の販売は電通がFMAと契約して請け負ったが、FMAの設定が高額で、テレビ局は手も足も出せなかった。売れなければ困るAFCは結局、FMAから日本国内の放映権のみを取り戻し、電通に改めて販売を委託。FMAを除外したことで金額は一定程度下がったとみられる。それでもテレビ局が手を挙げられる金額にはならなかった。

 そして今年、DAZNが22、26年W杯最終予選を含むAFC主催の14カテゴリーの放映権を28年まで獲得した。発表された8月19日には、テレビ朝日が22年W杯最終予選ホーム戦の5試合を中継することを発表した。

 DAZNが大型契約を結んだこと。ホーム戦だけ地上波中継が残ったこと。そこには「伏線」と「ミソ」がある。

 06年W杯ドイツ大会以降から地上波で最終予選の独占中継を続けたテレビ朝日が、放映権の高騰でAFCが主催する日本代表戦の中継を断念し、それに伴いナインティナインの矢部浩之がMCを務める「やべっちF.C.」の終了を決定したのは昨年上旬だった。9月末の番組終了からわずか2カ月後の11月29日、DAZNで「やべっちスタジアム」が始まった。

 これが「伏線」。DAZNは後続番組を作ると決めた段階で、代表戦の放映権獲得を視野に入れていたという。「やべっちスタジアム」は主にJリーグの魅力を発信していく番組。Jリーグファンは既にDAZNに加入している人が多く、新規契約者獲得に直結しにくい。一方で代表戦や女子アジア杯などの新たなコンテンツを扱うことで、違うファン層を呼び込めると見込んだ。

 さらに、“まとめ買い”こそが、ホーム戦の地上波中継を存続させる「ミソ」ともなった。

 DAZNは最終予選やアジア杯などフル代表だけでなく、U―17、U―20代表やACL、フットサルまで14ものカテゴリーの放映権を獲得した。同じことができるほど余裕のあるテレビ局はない。視聴率が伸びにくいカテゴリーは、購入したとしても放送枠がなく、スポンサーも付きにくいからだ。代表戦の放映権だけを獲得することを望んだテレビ局とは対照に、AFC側には代表戦だけを切り分けると他が売れ残ってしまうため、どうしてもセット売りにしたい思惑があった。

 そこに現れたのがDAZNだった。全てを一括購入したことで、AFC、販売を請け負う電通ともに一定の利益を確保することができた。だからこそ最終予選のホーム戦のみという、“バラ売り”ができるようになったとも言える。かくして一時は撤退へ動いたテレビ朝日が再びホーム戦のみ放映権を購入し、日本のファンが日本での試合を地上波で見られなくなるという危機が回避された。

 黒船が、地上波という本丸を攻め落とした――と、もしもDAZNにそんな印象を抱いている人がいたとしたら実状は違う。

 黒船が、本丸を守った――そんな構図も浮かぶ、舞台裏がある。 (記者コラム・波多野 詩菜)

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