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森保一監督が内田篤人氏から受けた「最高の示唆」と、ある願い

[ 2020年8月25日 22:20 ]

サッカー日本代表・森保監督
Photo By スポニチ

 日本代表と五輪代表を率いる森保一監督(52)が、現役を引退した元日本代表DF内田篤人氏(32)から「最高の示唆」を受けていたことを明かし、“仲間入り”を呼びかけた。現役引退会見から一夜明けた25日、オンラインの取材の場で明かした。

 「最高の示唆」を受けたのは、内田氏がドイツからJ1鹿島に復帰後、たわいもない世間話をしていた時のことだったという。「同じサッカーでもドイツと日本では別競技なんですよね」――。ふと発せられた言葉が、森保監督の心にとまった。

 「日本人の指導者として胸に突き刺さるというか、凄い言葉をもらったなと。選手たちは世界を目指して成長したいと思っている中で、我々日本人の指導者が、世界を目指して世界に羽ばたいていけるような働きかけをしていかなければと、凄く考えさせられた」

 以来、その言葉を忘れないようになった。「世界に追いつくだけでなく、世界を追い越すために何をしないといけないのかということを、自分たちの活動の内容に変えていけるようにしたい」と心するようになった。


 内田氏の「別競技」という言葉が意味するところ。同じ「競技」に引き上げるために、指揮官自身は「インテンシティーとデュエルの部分を上げていかなければいけない」と解釈している。

 「日本はうまさというところは武器だと思うが、強さを兼ね備えなければいけない。強さとうまさを両立できれば、日本人の持っている技術力や組織力が生かされて世界で勝っていけることになる」

 「インテンシティー」と「デュエル」。2つの言葉は、森保監督の前に日本代表を指揮した外国人のザッケローニ氏とハリル氏が頻繁に強調した言葉だった。

 「インテンシティー」は、直訳では強さや厳しさを指す。ただ、当時のザッケローニ氏は「攻守の切り替えの速さではない。ボールを保持していないときに相手のボール保持者を襲い、ボールを保持しているときは足元でバスを受けるのではなく、スペースに走って受けたりスペースに走った選手にパスを送ることなどだ」と説明している。「デュエル」の意味は1対1の決闘。ハリル氏は「日本人に足りないところ」と言い切った。森保監督はあえて今も日本語に訳さず、両監督が発したそのままの言葉で代表に残し続けている。


 コロナ禍の今夏、一時帰国した欧州組の選手の中には、日本協会の新拠点である夢フィールド(千葉県)で調整を行う選手がいた。指揮官は、欧州の4大リーグのクラブに在籍するとある選手に「(戦う上で)何が必要?」と聞いたという。攻撃的なポジションであるにも関わらず、その選手は「ボールを奪う力」と答えた。また、4大リーグ以外から4大リーグのクラブに移籍した別のとある選手は、「打撲が増えた」と話した。

 「何を意味するかというと、コンタクトが凄く多いということ。その中で、局面で勝ってボールを保持して攻撃につなげなければいけない」。技術力が引き立つのは、強さという基板があるから。表現こそ異なるが、2人の言葉には共通項があった。

 気づきを与えてくれるのは、日本代表の選手たちだけではない。代表の指揮官として、育成普及活動の一環で子どもたちのもとに足を運ぶ機会も多い。「みんな何を目指しているの?」と聞けば、「バルセロナでプレーしたい」、「リバプールでプレーしたい」、「ユベントスでプレーしたい」と名門がずらりと並ぶ。迷いもなく最初から「世界」に目を向けた答えが返ってくる。それを聞く度に、身が引き締まるという。

 「指導者として世界を基準に持って指導していかないとこの選手たちに失礼だなと、ほんとにいつも思わせてもらいます。全ての選手と指導者が世界で勝っていくために考えながらできるように、いろんな発信や協議をしていけたらなと」


 国内でしか選手や指導者の経験がなくとも、森保監督には「絶対に世界で通用する選手を育て、世界で勝っていけるチーム作りができる」という自負がある。立場を越えていつも周囲の言葉に懐深く耳を傾け、「勉強だけは怠らずに、足りないところは海外に行って経験を持っている人たちの感覚も吸収していきたい」と学ぶ。そんな指導者が、おそらく日本には他にも多くいる。

 世界の一流を知る内田氏のような存在が、世界との差について正直に伝えていく言葉は、だからこそ何よりも価値がある。引退後の道が決まっていない内田氏に向けて、森保監督はこの日、ある願いを口にした。

 「サッカーの現場で指導者として働いてほしい。日本のサッカーの発展に貢献してもらえる経験を持っている人なので、将来的にはぜひ現場でその経験を生かして選手を育ててほしい」 (記者コラム・波多野詩菜)

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2020年8月25日のニュース