「鎌倉殿の13人」全成渾身!最期に“あの呪文”で奇跡「感動」新納慎也が語る舞台裏“壮大な前フリ”完結

[ 2022年8月7日 20:45 ]

「鎌倉殿の13人」阿野全成役・新納慎也インタビュー(上)

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第30話。妻・実衣を思い、最後の力を振り絞って呪文を唱える阿野全成(新納慎也)(C)NHK
Photo By 提供写真

 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は7日、第30回が放送され、俳優の新納慎也(47)がコメディーリリーフとして抜群の存在感を発揮してきた僧侶・阿野全成の壮絶な最期が描かれた。「私の占いは半分しか当たらない」と自虐、妻・実衣(宮澤エマ)も「あなた、見掛け倒しだから」と評したが、最期に「人知を超えた力」を発揮した。新納に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 稀代の喜劇作家にして群像劇の名手・三谷幸喜氏が脚本を手掛ける大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。新都・鎌倉を舞台に、13人の家臣団が激しいパワーゲームを繰り広げる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は8作目にして大河初主演に挑む。

 新納演じる阿野全成は、源頼朝(大泉洋)の異母弟。修行を積んだ陰陽を駆使し、兄を補佐。政子(小池栄子)の妹・実衣(宮澤)と結婚。僧として北条の権勢が強まっていく様を見つめた。

 第30回は「全成の確率」。源頼家(金子大地)に対して呪詛を行った疑いにより、詮議を受ける阿野全成(新納)。比企能員(佐藤二朗)は背後に北条家の暗躍があると確信し、対決姿勢をさらに強める。夫・全成が権力闘争に巻き込まれた実衣(宮澤)は激怒。娘・実衣の追及に、北条時政(坂東彌十郎)は名乗り出ようとするものの、妻・りく(宮沢りえ)に止められる。北条義時(小栗)は北条家を守るため一案を講じ、畠山重忠(中川大志)の助力を得る…という展開。

 全成は八田知家(市原隼人)が治める常陸へ流罪。しかし、所領の再分配をめぐって頼家と対立した能員が「実衣殿の身が危うい」と焚きつけ、全成は再び頼家を呪詛。知家が頼家に報告し、討伐役を申し出た。

 山奥の寺の境内。知家の家人たちに連れ出された全成は呪文を唱え続けると、空が暗くなり、風が吹き始めた。

 全成の呪文はヒートアップ。雨が降り始めた。風は突風、雨は横殴り、雷鳴も轟く。家人が全成を斬りつけると同時に雷が落ち、木が倒れる。致命傷には至らず、縄が解けた全成は肩口からの鮮血を目にし「実衣ー!」と絶叫。立ち上がり「フッ。『臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前!』『急急如律令』。ごう(合)!」【※1、※2、※3】と呪文を唱えながら、手刀を縦横に切った。恐怖のあまり、家人たちの腰が砕けた。

 義時「私が知ったのは、八田殿が鎌倉を出た後でした。全成殿を救うことができず、すまぬ」

 実衣「あの人はどんなふうに亡くなったんですか」

 義時「立派なご最期だったと」

 実衣「詳しく話して。聞いておきたいの」

 義時「庭に引き据えられた時、全成殿はひたすら呪文を唱えておられたそうだ。斬首の刀が振り下ろされたその時、雷が近くの木に落ち、そこにいた誰もが恐れおののいたと。太刀筋が外れ、全成殿はまだ生きておられた。空が暗くなり、激しい雷雨が。進み出た八田殿が、その首を落とした刹那…」

 知家「悪禅師全成。覚悟」

 義時「嵐はやみ、青空が広がったそうだ」

 実衣「(号泣しながらも笑みが浮かぶ)」

 政子「やはり全成殿には、人知を超えたお力があったんですね」

 実衣「当たり前でしょ。醍醐寺で20年修行を積まれてきたんですよ。あの人は、そういうお方なんです。私には分かってた。ずっと昔から。やってくれましたねぇ。最後の最後に」

 義時は比企打倒の決意を固めた。

 全成の初登場は第7回(2月27日)。兄の挙兵を知り、政子たちが避難している伊豆山権現に京の醍醐寺から駆けつけた。そこへ政子たちを捕らえようと僧兵が現れると、全成は「待たれよ。私が風を起こす。その隙に逃げられよ。醍醐寺で修行を20年。フッ。『臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前!』『急急如律令』。ごう(合)!」と呪文を唱えながら、手刀を縦横に切った。しかし、風は起きない。陰陽は失敗。「今日は難しいようです。あとは(仁田忠常に)任せた。逃げましょう。さあ、早く!急いで!」――。いきなり視聴者の爆笑をさらった。

 あれから約半年、24話分の時が流れた。全成が知家に討たれるのは史書「吾妻鏡」にも記載があるが、今作の全成の最期について、新納は「三谷さんの脚本は予想の遥か斜め上を行くので、全成のラストに関しては、ただただ楽しみに待っていました。最初失敗した陰陽に最期は成功するという、大河ドラマ全編の約半分をかけて、三谷さんが壮大な前フリをしてくださったんだと心から感動しました。前回(第29回、7月31日)、木人形を1体取り忘れた全成らしい詰めの甘さも、実衣ちゃんへの純愛を貫いたゆえの最期というのも、本当に素敵だと思いました」と最初に台本を読んだ時の印象。

 全成がラストに唱えた呪文は4つだが「ただ、最初に仏事指導の先生に提案いただいたものは、初登場の時に唱えた『臨 兵 闘 者 皆 陣 烈 在 前』が最後じゃなかったんですね。この呪文を最後に唱えて陰陽が成功するのでなければ、三谷さんの壮大な前フリが完結しない。仏事指導の先生と(第30回演出の)吉田(照幸)監督にお願いして、順番を変更していただきました」と細部まで入念だった。

 オンエア上は約3分にわたった一連のラストシーンの撮影は約6時間を要し、雨や風などはCGなし。「雷1つといっても、まず音声さんと照明さんの力が必要なわけじゃないですか。雷に合わせて木が倒れるとなると、今度は大道具さんがタイミングを計らないといけない。もちろん俳優陣もそれに合わせて芝居をするし、ありとあらゆる部署のスタッフさんたちが神経を研ぎ澄ました6時間。『これぞ、まさに総合芸術』という貴重な経験をさせていただきました」と今なお臨場感たっぷりに振り返った。

 「撮影の合間合間に、各セクションの人たちが『こんなシーン、大河で作ったことはないですよ』と次々に声を掛けてくださるぐらい。いや、僕の方からすると各セクションの『あなたも凄い、あなたも凄い、あなたも凄い』ということですよね。何十秒という1つのシーンでも、みんなが力を集結して作り上げている。そのことを、あらためて実感しました。6時間集中し続けた撮影が終わった瞬間、その場の全員が『これは絶対、いいシーンになった』。そんな充実感を味わえた現場でした」

 ◇新納 慎也(にいろ・しんや)1975年(昭50)4月21日生まれ、兵庫県神戸市出身。16歳の時にスカウトされ、モデルとして芸能界入り。俳優を志ざし、大阪芸術大学舞台芸術学科演技演出コースに入学。演劇を学び、俳優として活動を始めた。ミュージカル、ストレートプレイを問わず、名だたる演出家の舞台に多数出演。三谷幸喜氏作・演出の舞台「ショウ・マスト・ゴー・オン」(今年11~12月、東京・世田谷パブリックシアター)、日本初演のミュージカル「バンズ・ヴィジット」(来年2月、東京・日生劇場)への出演が決まっている。

 【※1】「臨 兵 闘 者 皆 陣 列 在 前」=九字の呪文と九種類の印により身を守る「九字護身法」。「臨める兵、闘う者、皆 、陣列べて、前に在り」の意味。
 【※2】「急急如律令」=中国漢代の公文書の末尾に書き添えられた決まり文句。「急々に律令の如くに行え」の意味。転じて、陰陽師や祈祷僧が呪文の効果が出るように用いた。
 【※3】「ごう」=「合」と書く。最後に九字の力を「合わせる」の意味。

 =インタビュー(下)に続く=

続きを表示

この記事のフォト

2022年8月7日のニュース